Works Human Intelligence(ワークスHI)が、新たな戦略による本格的な再成長を目指している。7月には、SAPジャパンの社長など外資系大手ITベンダーを中心にキャリアを重ねてきた安斎富太郎氏が社長CEOに就任。同社の前身であり、HR領域で絶対的な強みを持つERP「COMPANY」を金看板としていた旧ワークスアプリケーションズとは一線を画す形のビジネスモデルに移行しようとしている。(本多和幸)
安斎富太郎 社長
ワークスHIは、人事管理や給与計算、タレントマネジメントなど、HR領域の機能を網羅したHRソリューション「COMPANY」が主力製品だ。国内の大手企業を中心に、約1100社・企業グループでの採用実績がある。
もともとCOMPANYは、HRだけでなく、財務会計や生産管理(SCM)などのモジュールも備えたERPとしてワークスアプリケーションズが開発・販売していた基幹業務アプリケーションの製品名だった。しかし、ワークスアプリケーションズが2014年に、AIを活用した次世代ERPとして「HUE」を発表して以降、関連するR&Dや人材への投資が膨れ上がった一方で、その回収が十分なスピードで進まず、業績が悪化。昨年8月に、強みであったHR領域の製品事業を分社化して米投資会社のベインキャピタルに売却した。このHR関連事業を顧客ごと継承した新会社がワークスHIだ。
製品ブランドとしては、ワークスアプリケーションズの手元にはHUEが残り、COMPANYはワークスHIに譲渡される形になった。つまり、ワークスアプリケーションズはHUEブランドの傘の下で旧COMPANYと旧HUEの両方の財務会計とSCMを展開し、ワークスHIは、旧COMPANYと旧HUEのHR製品をCOMPANYシリーズとして提供することになった。
旧ワークスアプリケーションズの成長を支えた競争力が高い製品であるHRソリューションと、強固な顧客基盤を誇っていたCOMPANYブランドを引き継いだ形のワークスHI。発足当初はワークスアプリケーションズの創業者の一人である石川芳郎氏が社長CEOを務めていたが、今年7月に安斎富太郎社長CEOが就任(今年1月から副社長として同社の経営に参画)し、石川氏は会長に就いた。安斎社長のリーダーシップの下、同社は旧ワークスアプリケーションズとは明確に異なる戦略で改めて成長へのビジョンを描こうとしている。
SIパートナーを安斎社長自ら開拓
旧COMPANYのビジネスは、直接販売を基本としてきた。しかしワークスHIは現在、パートナーエコシステム主導型のビジネスモデルに転換を図るべく準備を進めているという。販売パートナーや導入・定着支援などのサービスを提供するパートナー、さらにはCOMPANYと連携する製品を手掛けるソリューションパートナーの拡充に注力していく方針だ。
安斎社長は、「自社のリソースだけでは成長のスピードに限界が出てくる。さまざまなSIerに担いでもらう形で販路を拡大し、導入・運用・保守などのサービス体制を充実させるのは非常に有効だと考えている」と話す。SAPジャパンをはじめ、外資系ベンダーで基幹システムのパートナービジネス推進に携わった経験や人脈を生かし、安斎社長自らがパートナー開拓に取り組んでいる段階だ。
また、COMPANYは自社製品だけで完結したビジネスを指向するのではなく、ユーザーのHR戦略のプラットフォームになることを目指す。そのため、従来の競合ベンダーも含め、シナジーが想定できる他ベンダーとは積極的に連携を進めていく意向だ。「例えば、HRソリューションとしての核はCOMPANYの人事管理や給与計算を使い、タレントマネジメントは『SAP SuccessFactors』などを使ってもらってもいい。ユーザー企業が既存資産を生かしながら、最終的にはCOMPANYをプラットフォームとして、経営の向上につながる統合的なHR戦略を運用できるようにするというコンセプトだ」(安斎社長)。同社の経営企画部門には専門チームも設置し、パートナーエコシステムの拡充を図っている。
中堅企業向け市場への進出に含み
一方、製品戦略に目を向けると、今後のロードマップでは、最新のCOMPANYシリーズに旧HUEのコンセプトを移植していく形になるという。旧ワークスアプリケーションズはパッケージのノンカスタマイズを標ぼうしていたことでも知られるが、この方針は不変。新生COMPANYも、豊富な顧客基盤を背景に機能を充実させ、コンフィギュレーションで各顧客企業の課題に合った実装ができる製品にしていく。コアとなる人事管理や給与計算の機能強化はもちろんのこと、従業員エンゲージメント強化や健康経営をカバーする機能拡充も視野に入れる。
ただし、対象顧客の設定については見直す可能性を残す。前述のとおり、旧ワークスアプリケーションズはCOMPANYで大手企業に特化したビジネスを展開してきたが、「中堅企業向けのHRソリューション市場への進出なども検討している」と安斎社長は明かす。
当面の経営目標としては、「3~4年でのIPO」(安斎社長)を目指す。パートナーエコシステムの力でスピーディーに規模を拡大するビジネスモデルに移行することで、この目標を現実のものにしたい考えだ。