第5世代移動通信システム(5G)のプレサービスをNTTドコモ(ドコモ、吉澤和弘社長)が開始した。「ラグビーワールドカップ2019」で最新の5G対応端末を使った観戦サービスを提供するほか、パートナー向けの施策を大幅に強化。コンシューマーはもちろんのこと、ITベンダーを含むパートナーとのビジネス共創体制強化のために、人員と拠点を拡大した。5Gで大きなニーズが見込まれるビジネスユースを取り込むための体制を盤石なものにしようとしている。(銭 君毅)
吉澤和弘社長
パートナー支援を5000人体制でMECクラウド基盤の“本番”検証環境を提供
“本格的”な5Gサービス開始
2020年春からの5G商用サービス開始を予定しているNTTドコモは9月20日、5Gプレサービスを開始した。18日には「5Gプレサービス発表会」を開催し、プレサービスの詳細と同社の取り組みを説明した。
発表会の別会場ではパートナー企業による5G対応サービスが展示された
「5Gプレサービス」と銘打ったサービスは、ソフトバンクが7月に音楽イベントの「フジロックフェスティバル」で地域・期間限定で提供したが、今回のNTTドコモのプレサービスは利用者が限定されるだけでインフラはそのまま5Gの商用サービスに引き継がれる。その意味では、“本格的な”5Gプレサービスとしてはドコモが一番乗りだと言えそうだ。なお、KDDIは11月から共創スペースでトライアル環境を用意すると発表している。
吉澤社長は今回のプレサービス開始について、「われわれは、(9月20日を)本格的に5Gのサービスを開始する日だと位置付けている。本番と同じ環境で5Gを体験してもらうことが可能になった」と語る。同社のプレサービスでは全国4店舗のドコモショップや駅、空港をサービス提供エリアとして5Gを体験できる場所として整備するほか、5G技術の検証環境「ドコモ5Gオープンラボ」を、既設の東京、大阪、沖縄、グアムの4カ所に加えて計11カ所に拡大(グアム以外は全て国内)した。特に、地方のパートナー企業との共創の取り組みを加速させたい方針だ。
また、全国10カ所のスタジアムや球場でも5Gの利用環境を整え、9月20日から開催される「ラグビーワールドカップ2019」では同社が提供する5G端末を活用することで高精細な映像で多視点の試合観戦が可能になっている。これらのエリアでは5G周波数帯の中でも広帯域なミリ波帯を利用でき、5Gならではのサービスを体感できるという。
同社は5Gサービスの運用を計画しているキャリア4社の中で、総務省から唯一3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯と三種類の周波数帯を割り当てられている。総務省に提出している基地局展開のロードマップでは、24年度末までに全国約97%の展開率を達成することを掲げているが、これは実現可能な最低限の数値であり「計画の前倒しを考えている」(吉澤社長)として順調にエリア展開が進んでいることをアピールする。
ドコモ5Gパートナープログラムには3000社が加盟
同社はこれまで、5Gのビジネスユースを実現するため、さまざまなパートナー企業と実証実験などを進めてきた。同社が提供する「ドコモ5Gパートナープログラム」はすでに3000以上の企業・団体が加盟しており、これらに対して技術や仕様の情報、パートナー同士のマッチングの場などを提供している。また、同パートナープログラムに参加している企業向けにドコモ5Gオープンラボと直結した技術検証基盤「ドコモ5Gオープンクラウド」を通してAIを活用したソリューション開発なども促進してきた。
今回のプレサービス開始に伴い、新たに現地での技術検証に使うことができるクラウド基盤「ドコモオープンイノベーションクラウド」の提供を開始する。これは、これまでコアネットワーク設備を配置していたドコモ局舎にクラウド基盤を配備したもので、いわゆる「MEC(Multi-access Edge Computing)」の概念を再現したもの。より現地に近いところにサーバーを配置し、低遅延を生かしたソリューションをより本番に近い構成で検証できる。
プレサービス開始以降は5Gサービスの提供にかかわる人員を増加し、5000人以上をパートナーとの協業に向けた営業・技術担当に充てるという。3000社規模からさらに増えていく大量のパートナーに対して、最適な関係構築を個別に図ろうという意欲が見て取れる。