クラウド会計のマネーフォワード(辻庸介社長)は8月1日から「10億円軍資金キャンペーン」をスタートさせた。堅調に推移しているように見える同社の法人向けビジネスだが、それでも会計をはじめとするクラウド業務アプリケーションの市場は「キャズム超えに至っておらず、市場拡大を大きく後押しする取り組みが必要」(竹田正信取締役)だという課題意識があった。業務アプリケーション版“10億円あげちゃうキャンペーン”とでも言うべきインパクトの大きい派手な施策を打つことで、今年10月に控える消費税率改正と軽減税率導入というビッグイベントをキャズム超えの強力な追い風として利用しようとしている。(本多和幸)
目指すは1万社の
新規顧客獲得
10億円軍資金キャンペーンは、マネーフォワードのクラウド業務アプリ「マネーフォワードクラウド」の新規ユーザーや、顧問先企業がマネーフォワードクラウドを新規で契約した会計事務所に対して、総額10億円を支給するという取り組みだ。これにより1万社の新規顧客獲得を目指す。
具体的には、キャンペーン期間の今年12月31日までにマネーフォワードクラウドの「法人ビジネス年額プラン」をクレジットカード決済で新規契約し、来年4月30日時点で同プランを継続しているユーザーに対してAmazonギフト券5万円を支給する。法人ビジネス年額プランの料金は6万円弱なので、「1万円未満でマネーフォワードクラウドを使うことができるイメージだ」とクラウド業務アプリ事業を統括する竹田取締役は説明する。来年4月30日まで毎月10件以上の仕訳登録があることも支給の条件になっており、マネーフォワードクラウドをビジネス基盤として使っている実態のあるアクティブなユーザーをしっかり増やしたいという意図も感じられる。
竹田正信
取締役
ちなみに法人ビジネス年額プランのメインターゲットは従業員50人程度までの中小企業だが、条件を満たせば中小企業とは言えない規模のユーザーであっても支給の対象になるという。
一方、マネーフォワードにとってクラウド業務アプリのチャネルとなる会計事務所や社労士事務所のパートナー「公認メンバー」は現在全国で3700事業所ほど。入会金、年会費無料のエントリークラスである「ブロンズメンバー」、入会金と年会費が必要な「シルバーメンバー」「ゴールドメンバー」「プラチナメンバー」という四つのカテゴリーがある。シルバー以上は年会費の額や導入支援実績によってカテゴライズされ、上位カテゴリーほど教育支援やマーケティング、販売のサポートが手厚く、リセールやリファーラルにおけるインセンティブも優遇される。
今回のキャンペーンの対象になるのは、シルバー以上の公認メンバーだ。顧問先企業が前述のような条件でマネーフォワードクラウドの法人ビジネス年額プランを新規契約し、一定期間の利用実態があり、かつ公認メンバーがマネーフォワードの顧問先管理機能を活用して自らの業務効率化にも取り組んでいれば、同社から1顧問当たり10万円が支給される。
会計事務所パートナーの
活性化と新規獲得を最重要視
マネーフォワードには、公認メンバー経由のユーザーのほかにウェブで直接契約するユーザーもおり、これももちろん今回のキャンペーン対象ではある。しかし同社がキャンペーンを通じて活性化させたいのは公認メンバーの活動で、特にその中核を成す会計事務所チャネルだ。その背景には、中小企業向けのクラウド基幹業務アプリがキャズムを超えられていないという危機感がある。竹田取締役は次のように説明する。
「例えば中小企業向け会計ソフトではクラウド化率はまだ15%未満というデータもあり、クラウド会計の市場そのものを広げなければならない段階にある。直接契約してくれるユーザーはイノベーターやアーリーアダプター層がほとんどで、彼らからの支持は得ていると自負しているが、問題はアーリーマジョリティーからレイトマジョリティー層にかけての本格的な普及が進まないこと。彼らは業務アプリの導入にあたって外部の助けを必要とするケースが圧倒的に多く、会計事務所パートナーの動きがキャズムを超えるためのカギになる」
「消費税改正と軽減税率制度のスタートを間近に控え、バックオフィス業務とシステムの見直しが不可欠なこのタイミングでキャンペーンを打ち出し、ユーザー側と導入支援を担う会計事務所の両方を支援することで、クラウド会計、クラウド業務アプリの市場を一気に拡大できるのではないかと考えた。既存のブロンズメンバーがシルバー以上のカテゴリーに移る動きや、シルバー以上の公認メンバーの新規開拓が進むことを期待している」
10億円軍資金キャンペーンの目的としては、弥生やfreeeをはじめとする中小企業向けクラウド基幹業務アプリの競合ベンダーからマネーフォワードへの乗り換え促進を狙うという側面も当然ある。しかし竹田取締役は、「他ベンダーが同様のキャンペーンをやってもいいと思っている」と話す。消費税改正と軽減税率制度のタイミングを利用して派手なアドバルーンを上げることで広く中小企業にクラウド業務アプリへの関心を持ってもらい、市場そのものを拡大することを最重要視しているのだ。