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KDDI、アイレットが米ラックスペースと協業 エンタープライズIT市場の主役の座を狙う
2019/05/19 10:00
週刊BCN 2019年05月13日vol.1775掲載
「マルチクラウド」でSoR領域のクラウド変革をけん引
ラックスペースはグローバル市場ではもともと、社名の通りサーバー・ホスティング事業を主力とするIaaS市場黎明期のメインプレイヤーだった。しかし、AWSをはじめとして米マイクロソフトの「Microsoft Azure」、米グーグルの「Google Cloud Platform(GCP)」といった巨大ベンダーのクラウドサービスが台頭するにつれ、マルチクラウド対応のマネージドサービスに軸足を移したという経緯がある。この戦略は現時点では成功していると言えよう。米ガートナーのマジッククアドラントでも、「Public Cloud Infrastructure Professional and Managed Services」市場の有力ベンダーとして、グローバルコンサルファーム/SIer各社と並ぶリーダーポジションに分類されている。
同社は現在、北米のほか欧州や豪州でもマルチクラウド対応のマネージドサービスで成功を収めており、アジアでもビジネスを拡大しようとしている。KDDIの丸田徹理事(ソリューション事業本部ソリューション事業企画本部副本部長兼クラウドサービス企画部長)は、「ラックスペースが日本市場を非常に魅力的な市場だと考えていることは間違いなく、事実、われわれも潜在的な市場は非常に大きいと考えている。一方で、彼らは日本市場にアプローチするためのスキルセットも持っているが、実際にどう顧客と接点を持って市場を開拓していくかという点で課題があった。そこに、KDDIの顧客基盤とアイレットのエンジニアリング力を融合させれば大きな力になる」と話す。
アイレットが本格的に
マルチクラウドに踏み出す?
KDDIは自前のクラウドインフラを活用したサービス「KDDIクラウドプラットフォームサービス(KCPS)」のほか、アイレットの「cloudpack」(AWSを基盤としたフルマネージドサービス)やAzure、GCPをベースにしたサービスもラインアップし、マルチクラウド戦略を採っている。KDDIから見ても、ラックスペースとの提携によるサービス強化は大きな前進だという。「当社のマルチクラウド戦略に高品質なマネージドサービスを重ねることができる。クラウドネイティブな領域だけでなく、既存の情報システムの中心であるSoRも含めてエンタープライズIT市場のクラウドシフトが本格化してきたこのタイミングで協業の話が具体化できたことは大きい」(丸田理事)。
ラックスペースのサービスの大きな特徴は「ファナティカル・サポート」という哲学だ。直訳すれば顧客への「熱狂的な支援」ということになるが、顧客の課題を解決するために過剰とも言えるほど能動的に行動することが競合のMSPに対する大きな差別化要因になっているという。丸田理事は「KDDIの姿勢と合致するし、ファナティカル・サポートの概念がわれわれのサービスのCX向上にもつながる」と期待を寄せる。
一方、cloudpackが主力事業であるアイレットにとっても、今回の提携はマルチクラウドに本格的に舵を切る契機になりそうだ。同社の後藤和貴・執行役員エバンジェリストは、「KDDIグループ入り後はKDDIの受注案件でもクラウド上のインフラ構築や運用を手掛けているが、マルチクラウドのニーズは着実に増大していると感じる。また、アイレットの既存のお客様もAWS以外のクラウドを並行して利用するケースが増えてきて、当社としてもいずれマルチクラウドの戦略を本格化させることになるとは考えていた。ファナティカル・サポートを掲げるラックスペースのソリューションは日本市場と相性がいいとも思っていたし、アイレットにとっては新たなビジネス領域に踏み出す推進力にもなる」と説明する。
まずはKCPSとAWSに
対応したサービスを提供
3社の提携により、ラックスペースのサービスがいよいよ日本市場でも提供されることになる。役割分担としては、KDDIがセールスやプリセールスを中心に担当、ラックスペースがマルチクラウド管理のツールやノウハウを提供し、これらを活用してアイレットが構築・運用などを手掛ける。19年内のサービスインを目指すが、サービスのブランド名を「Rackspace」にするかは未定だ。グローバルではラックスペースのマネージドサービスはAWS、Azure、GCPのほかAlibaba Cloudやプライベートクラウドにも対応しているが、当面、日本市場ではKCPSとAWSに対応したマネージドサービスから提供を始める予定だ。市場の反応を見ながらAzureやGCPへの対応も検討する。後藤執行役員は「アイレットの社内にはAWS人材が圧倒的に多いが、AzureやGCPに対応できる人材も既にいる。サービスの発展状況を見ながら人的リソースの整備を進めていきたい」と話す。
また、既に国内市場でクラウド環境の有力マネージドサービスとしての地位を確立しているcloudpackと新サービスとの棲み分けとしては、「cloudpackはウェブサービスや新規ビジネス向けに事業部門に提案するケースが中心であり、アイレット自身のプル型のセールスを中心に販売していくのは今後も変わらないし、さらに大きな成長が見込めると考えている。一方でラックスペースベースのサービスは大企業の守りのIT、いわゆるSoR領域での提案が中心になり、KDDIがプッシュ型でユーザー企業の情報システム部門に積極的に営業していく」(丸田理事)方針だ。
KDDIとアイレットはマルチクラウド環境に対応した日本未上陸の有力MSPベンダーといち早く手を組み、全方位で進みつつあるエンタープライズITのクラウドシフト需要を大きな成長につなげようとしている。(本多和幸)
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