AIに特化したベンチャー企業のなかで、特定業界に注力し、市場を開拓していこうとする動きが出てきている。その成功ノウハウをもって、さまざまな業界にAIを広めることが狙いだ。ベンチャーならでの小回りが利いた動きと最新技術への柔軟な対応という、大手には真似できない取り組みで、AIの導入促進につなげている。ベンチャー同士のアライアンスも進めようとしており、プラットフォームの提供で主導権を握ることも視野に入れている。(佐相彰彦)
まず、業界特化の事業部を設置
特定顧客との協業強化も
データアーティスト
山本 覚
社長
マーケティング領域のAI技術開発を進めているデータアーティストは、電通の傘下に入ることを決定した。電通グループの「ビッグデータ、AIソリューションの開発拠点」という位置づけで、年内にモンゴル・ウランバートルに拠点を設立する。「これまで受託に近いかたちで案件を獲得してきたが、業界に特化した事業部をまずはつくって、さまざまな業界でAIを広めていく」(山本覚社長)との方針を示す。具体的には、教育や観光、金融、ヘルスケアなどの事業部の設立を検討している。AIを活用して業界特化型のソリューションを創造し、事業部が新規顧客を開拓する。また、「業界に精通した会社と組んでジョイントベンチャーの設立も模索していきたい」との考えを示している。
Spectee
村上建治郎
代表取締役CEO
SNSに投稿された映像や画像をAIで解析してリアルタイムに配信、また自然言語解析にもとづいて発生場所を特定するシステムを提供し、報道機関を中心に100社以上に導入しているSpecteeは、「2020年をめどに、メディアをつくる」(村上建治郎代表取締役CEO)ことを構想している。もちろん、顧客である報道機関との関係が崩れないように、どのようなメディアを立ち上げるかは今後詰めていくが、「AIをコアにすれば少人数でもメディアを立ち上げることは可能。報道機関とのパートナーシップを深めるためにも、自社でメディアを立ち上げることは重要だと捉えている」と話す。
データセクション
澤 博史
社長
AI技術による高精度な画像解析ソリューションが得意のデータセクションでは、「MASAMITSU データセクション・ビッグデータ・ファンド」という株価予測システムを活用したファンドを運用している。ファイブスター投信投資顧問と共同で開発した。Twitterやブログなどのソーシャルデータや、為替レート・日経平均株価などの各種経済指標など、さまざまなビッグデータを分析することによって近未来を予測し、その結果にもとづいて実際のファンド運営を行う。日本初となるビッグデータ活用型ファンドとして注目を集める。澤博史社長は、「この案件のように、ビジネスプロデュース型で当社のAI技術を広めていく。ビジネスを創造するためには、会社を設立することも十分に考えられる」としている。
メタデータ
野村直之
社長
メタデータでは、アンケートの自由回答や顧客の声を分析して、競合のグラフやポジショニングマップを生成、元データの地理的情報や時間枠も加味し、競合分析や比較分析を実現した「AIポジショニングマップ Mr.DATA」を提供している。データ整備のためにAIを駆使する技術を「Mr.DATA構想」として、戦略的な提携を進めている。昨年末には、システム開発の木村情報技術と業務提携して、関連・類似検索と学習不要型テキスト自動分類SDKを提供。主に医薬品業界コールセンターの対話ロボットの素材となるFAQ整備の生産性向上につなげた。メタデータの野村直之社長は、「理解ある企業と深くつき合うことで、当社の技術を広めていく」との方針を示している。
小回りのよさを生かす
ベンチャーアライアンスも模索
AIに特化したベンチャーは、特定業界向けに新事業部を立ち上げたり、ユーザーとのアライアンス拡大に取り組みAIの普及を加速させようとしている。知名度が低いベンチャーだからこそ、業界を絞り、コンパクトで明確なAI活用の提案で勝負しようというわけだ。データセクションの澤社長は、「大手には真似ができない、ベンチャーの強みである小回りのよさを生かす」とアピールする。
また、ベンチャー同士でアライアンスを組む動きも出てきている。データアーティストでは、業界に特化したツールを提供するベンチャーを募ってアライアンスを組むとしている。「他社に声をかけたところ、前向きな意見が多い」と山本社長は手応えを感じている。
調査会社のMM総研によれば、AI関連の国内市場規模は、2016年度は前年度と比べて約2倍にあたる2220億円だった。しかし、ドイツが3260億円、米国は3兆9340億円と、他国に比べれば、まだまだ市場規模は小さい。MM総研では今後の日本市場についても予測。年平均20.4%で成長して、21年に5610億円に拡大する見込みという。市場成長のカギは、「利用者側の人工知能の技術理解の向上」「環境整備」「豊富なデータを生かせる人材と業界ノウハウ」と分析している。
このような状況のなかで、AIに特化したベンチャーは、最新技術への対応に取り組みながら、業界を絞った新規事業の設立や特定顧客とのパートナーシップ、アライアンスなどを進めて、いち早くビジネスチャンスをつかもうとしている。