その他
コアの衛星測位ビジネス 苦節13年、「みちびき」テコに反転攻勢へ
2018/01/25 09:00
週刊BCN 2018年01月22日vol.1711掲載
組み込みソフト開発に強いコア(松浪正信社長)は、衛星測位の「みちびき」を活用したSIビジネスを本格的に立ち上げる。2018年中をめどに「みちびき」を含む世界5つの測位衛星に対応した受信機用チップを製品化。従来の米GPSを活用した測位よりも格段に精密なセンチメートル単位の場所や高さの測定が可能になる。車載や農業、社会インフラなど幅広い分野へ適用していく。コアは過去13年にわたって衛星測位を活用したSIビジネスに挑戦。だが、安定性や精度に課題があり、うまくユーザー企業の業務に落とし込めないでいた。「みちびき」をテコにビジネス拡大を狙う。(安藤章司)
業界に先駆けて
世界5つの測位衛星に対応
衛星測位の「みちびき」は、17年までに計4基打ち上げられた日本版GPSだ。18年度から本格サービスが始まる。米GPSなどと組み合わせることで、センチメートル単位の超精密測位ができる見込み。コアでは、これに欧州「ガリレオ」、露「グロナス」、中国「北斗」の計5種類の測位衛星に対応した受信機用チップを18年中に製品化。信頼性の高い安定した衛星測位の技術開発に力を入れる。まずは、コアが重点領域と位置づける車載や農業、社会インフラといった領域に「みちびき」活用の測位技術を適用する。農業機械/建設機械の自動運転や、土砂災害の危険性がある山の斜面を定期的に測位することで地滑りや土砂崩れの予兆を検知。他にもダムをはじめとする構造物の定期点検にも応用できる。IoTと衛星測位を連携させることも視野に入れる。コアでは、北海道から九州まで全国6つの社内カンパニーを展開しており、技術者の6割余りをこれら地域カンパニーに配置。地域のニーズに合わせて、衛星測位関連のSI需要を取り込んでいく。
測位衛星の位置を再現するアプリ「GNSS View」。日米欧中露の5か国の測位衛星などを表示。
コアでは「みちびき」を含む5か国8つ以上の衛星の電波を使うことで、信頼性の高い安定した衛星測位を実現する計画。
同アプリは内閣府の公式HPで配布している
停滞気味だった
衛星測位ビジネスを活性化
松浪正信
社長
「みちびき」は、常に日本の上空に測位衛星が位置する準天頂衛星方式。この方式によって、ビルの密集地や山がちなところでも、測位精度が飛躍的に高まる見通し。コアでは、これまで研究開発してきたジャイロ原理にもとづく慣性航法や、測位の補正技術を駆使。常に8基以上の測位衛星の電波を受信することで、「ユーザーの要望に応えられる実用的な測位精度」を出していく。安定的で高信頼な測位ができるようになれば、先の農機/建機の自動運転や、土砂災害の予兆検知などに応用しやすくなる。停滞気味だった衛星測位を活用したSIビジネスが拡大する可能性が高まる。
地域や業務に密着した
SIに落とし込む
20年3月期までの3か年中期経営計画で、コアは営業利益率10%を目標に掲げる。足下の18年3月期の営業利益率は6.2%の見通し。利益率を高めるには「自社の強みを生かせる領域を重点的に伸ばす」(同)ことが欠かせない。衛星測位を活用したビジネスもその一つだと位置づける。組み込みソフトを巡っては、大手自動車関連メーカーが取り組む自動運転やコネクティッドカーなどの領域に進出するSIerが目立つが、コアは敢えて距離をとってきた。ビジネスの規模が大きすぎて、自社でビジネスを主体的に進めることが難しいと判断したからだ。そうではなくて、「当社がナンバーワンのポジションを狙える特定の領域/地域」を重視。「みちびき」活用ビジネスでも農業や建設、防災といった領域で、なおかつ地域に密着したSIビジネスを実践していくことで、高収益のビジネスを創出していく。
宇宙ITビジネスは過去10年で2倍に
野村総合研究所(NRI)の調べによれば、世界の宇宙ITビジネスの市場規模は直近で約37兆円。うちコアが手がけるような地上でのビジネスが全体の約8割を占める。衛星を活用した地上ビジネスは過去10年で約2倍に拡大。今後も成長が見込まれている。GPSのような測位衛星は、地球を高速で周回しているため、場所や時間によっては測位精度にバラツキがでやすい。そこで、打ち上げ費用を安く抑えられる小型軽量の衛星を複数打ち上げ、編隊を組んで飛行させる「衛星コンステレーション時代が本格的に訪れる」(NRIの佐藤将史・上級コンサルタント)と話す。「みちびき」も現状は4基だが、23年度をめどに計7機で編隊を組む体制にすることで、測位精度や信頼性をより高めていく。
- 1