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猛進する中国AI企業 音声認識の科大訊飛
2018/01/18 09:00
週刊BCN 2018年01月15日vol.1710掲載
【合肥発】昨年12月に中国外交部が主催した外国メディア向けの安徽省取材ツアー。初日に行われた省政府による説明会で、担当者が口を開くと、脇に置かれた大型パネルには、発言そのままの中国語と、英語の翻訳が瞬時に表示された。記者団は一斉にカメラを向け始めた。技術力を誇示したい政府の思惑通りに。この音声認識技術を開発したのは、同省が世界に誇るAI企業、科大訊飛(iFLYTEK、劉慶峰 董事長)である。(上海支局 真鍋 武)
科大訊飛は今、中国でもっとも注目を浴びているAI企業だ。音声認識技術を得意とし、中国のスマートフォンアプリやサービスロボットで広く利用されている。これまで同社の技術を搭載したデバイスは累計12億4400万台、国内音声認識市場のシェアは70%に達するという。最近では、医療や教育、金融、自動車など、幅広い業界に裾野を広げている。
「音声認識と音声合成に関して、すでに世界のトップレベルにある」。劉董事長は自信をみせる。安徽省の理系名門である中国科学技術大学などから優秀な技術者を引き入れるとともに、政府や大学、研究機関との提携を積極的に推し進め、研究開発に力を注ぐ。劉董事長自身、同大学の博士号を取得し、安徽信息工程学院の董事長も務める著名な研究者として知られる。
発言した内容を中国語で表示するだけでなく、瞬時に複数の言語に翻訳できる
売上高に対する研究開発費率は20%超。音声認識の正答率は過去6年間で60%台から95%以上に向上したという。ここ数年はNIST(米国立標準技術研究所)やCHiMEなどの国際的な音声認識コンテストで優秀な成績を収め、テキスト音声合成の品質を競うBlizzard Challengeでは1位を獲得。16年は参加企業で唯一となる4ポイント台を記録した。合肥本社には展示エリアを設け、「AIでよりよい世界を築くことはすばらしいことだ」と中国語で説く米ドナルド・トランプ大統領の音声合成デモなどを披露する。
中国は昨年、新たな国家戦略「次世代AI発展計画」を始動。30年にAI産業を世界のトップ水準に向上させ、関連産業規模を10兆元に拡大させる目標を掲げた。政策の後押しはIT企業に大きな商機をもたらす。画像認識の商湯科技やAIチップの寒武紀科技など、AIスタートアップによる大規模な資金調達が活発化している。地方政府の鼻息も荒く、安徽省が開発区に設けた「中国(合肥)智能語音及人工智能産業基地(中国声谷)」では、音声認識の企業集積を推進。中国メディアの報道によれば、すでに入居企業数は150社を超えた。
科大訊飛の業績も急速に伸びている。16年度の売上高は前年度比32%増の33億2047万元。17年度は1~9月の売上高が前年同期比で58%増え、すでに前年通期を超えた。「次世代AI発展計画」では、百度、アリババ、テンセントと並び、第一弾となる国家AIプラットフォームの企業に認定。政府の期待は大きい。1億5000万米ドルの開発者向け基金を設けるなど、自社の技術を取り巻くエコシステムの強化にも余念がない。
そして、科大訊飛は海外市場に目を向け始めた。今年1月、米ラスベガスで開催の家電見本市「CES」に初出展した。「私たちの声を世界に聞かせよう」。合肥本社1階には、このスローガンが掲げられている。政府支援など地の利の効かない海外市場をどう開拓していくのか、今後は世界からの注目が高まる。
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