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「Watson」だけの一本足打法じゃない!? 既存事業の方針転換や新規事業への注力が進む――日本IBM
2017/09/28 09:00
週刊BCN 2017年09月25日vol.1695掲載
ブロックチェーンビジネスを本格化
2020年、600億円市場の25%を獲る
鶴田規久
執行役員
米IBMはこれまで、グローバルで約400件のブロックチェーン活用プロジェクトに携わっており、うち10%が日本のプロジェクトだという。鶴田執行役員は、「なかには本番稼働を始めているものもある。もともと金融領域のプロジェクトが多かったが、流通、コミュニケーションなどの産業でもプロジェクトが立ち上がっており、現在は金融7割、その他3割というところだ」と状況を説明する。これらの多数のプロジェクトから得た知見を生かし、国内では、世界貿易、地方創生、公共サービスの3分野を中心に、IBM Blockchain Platformを活用した「業界横断的なインダストリー・プラットフォームの構築」に力を入れていく方針だ。
この業界横断的なインダストリー・プラットフォームとは、「金融、製造、小売・物流、規制当局など、各業界の関係者が、改ざん不可能な情報を、許可された権限に応じて信頼性、拡張性のあるネットワーク上で照合・更新できるもの」(鶴田執行役員)であり、例えば世界貿易では、ペーパーレス化の促進やトレードプロセス可視化により、コスト、リードタイムを大幅に削減できる可能性があるという。また、地方創生については、地方銀行などのコンソーシアムが、地域通貨を視野に入れた金融サービス基盤をブロックチェーンを活用して構築することで、地方から新しい金融ビジネスモデルや金融サービスが登場し、地域経済の活性化につながる可能性もあるとみているようだ。さらに鶴田執行役員は、公共サービスの領域でも、「ブロックチェーンが行政手続き効率化を大きく促進するコアテクノロジーになり得る」と指摘している。世界貿易、地方創生については、すでに本番稼働に向けたプロジェクトが動き出しており、18年後半には、先進事例が出てくる見込みだ。事例づくりと並行して、世界貿易、地方創生、公共サービスのそれぞれの領域で、ブロックチェーンを活用したパッケージ型の汎用サービスの開発も進める。
愛徳会メンバーにも
ビジネスの門戸を開く
朝海 孝
執行役員
一方で、国産のブロックチェーン・スタートアップであるbitFlyerやテックビューロなども、エンタープライズ用途で独自のパーミッションド・ブロックチェーン技術を提供しており、大手金融機関との実証実験などが多数立ち上がっている。直近では、全国銀行協会が新たな決済・送金サービスや本人確認・取引時確認(KYC)、全銀システム、でんさいネットシステムなどへのブロックチェーン活用を検討しようとしているが、その実証実験環境を提供するパートナーベンダーに、bitFlyerが、NTTデータ、日立製作所、富士通と並んで選定された。bitFlyer以外の大手3社はいずれもハイパーレジャー・プロジェクトに参画しており、ハイパーレジャー・ファブリックとの関係も近い。これに対して、bitFlyerの加納裕三・代表取締役は、「当社のブロックチェーン技術であるmiyabiは、ハイパーレジャー・ファブリックより圧倒的に速いし、エンタープライズ用途では絶対にすぐれている」と自信を込める。今後、同社を含む国産のブロックチェーン・スタートアップ各社が、どんな戦略でどんなベンダーと協業し、大手ベンダーが揃うハイパーレジャー・ファブリックと渡り合っていくのかも、市場の行く末に大きな影響を与えそうだ。
紫関昭光
ブロックチェーン・
クラウド・リーダー
データ分析の開発環境で“IBM色”を転換
ディストリビューションに他社製品を採用
日本IBMとホートンワークスジャパンは9月5日、両社のグローバル戦略に沿って、データ・サイエンス・プラットフォームでの協業を国内でも展開すると発表した。IBMとしては、データ分析用総合開発環境のディストリビューションにホートンワークスの製品を採用し、これまでの“IBM色”を転換する大きな判断をしたといえる。日本IBM
三浦美穂
執行役員
日本IBMは、データ分析用総合開発環境として、「Data Science Experience」(DSX)を提供している。構成するディストリビューションの大部分は自社で開発。一部に活用しているオープン・ソースにも独自の価値を付加する姿勢を崩さなかった。
しかし、エンジニアの人手不足が業界全体で問題化し、開発効率の向上が急務に。ユーザーのオープン思考も進み、ディストリビューションを自社で開発し続けるよりも、「得意な会社に任せた方がいい」(三浦執行役員)との決断に至った。
今回の協業では、DSXを構成するIBMのHadoop/Sparkディストリビューションを、ホートンワークスの「Hortonworks Data Platform」(HDP)に置き換えることが柱。ユーザーに対しては、HDPの上に「IBM Big SQL」を並べ、そのうえでDSXを活用してもらう形に設定した。DSXとBig SQL、HDPは両社から提供可能にし、メンテナンスやサポートの面で協力することなども盛り込まれた。
IBMとホートンワークスは、ビッグデータテクノロジーの普及促進と標準化を推進する非営利団体「ODPi」の設立メンバーになっている。IBMがHDPを採用した背景には、以前からホートンワークスと関係が深いことに加え、同社の技術を高く評価したことがある。
ホートンワークスジャパン
廣川裕司
社長
Hadoopへの貢献度も著しく、開発者にあたるコミッターの数は、世界で最も多い全体の約30%を占有。その結果、日本IBMから「世の中で一番デファクトになっているHadoopベンダー」(三浦執行役員)と位置づけられるようになった。
日本IBMと手を組むことについて、廣川社長は「日本のデータ分野で最大の協業」と胸を張り、「ユーザーはベストなデータプラットフォームを使って、ベストな結果が得られるはずだ」と呼びかけた。さらに、今回の協業によって「1+1を10にするような成果を出す」と強調し、「お互いにウィンウィンの関係を構築し、日本のデータ・ビジネスを世界トップレベルにもっていきたい」と意気込みを語った。
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