その他

CIerとSIerの協業 なぜcloudpackのパートナー制度を大手SIerやISVが歓迎するのか

2017/07/13 09:00

週刊BCN 2017年07月10日vol.1685掲載

“クラウドファースト”がようやく動き出す

 システムを構築するにあたり、まずはクラウドを検討する「クラウドファースト」がここ数年で広く認知されるようになった。すべてのシステムをクラウドに移行するユーザー企業がでてきたことも、クラウドファーストの時代を印象づけている。一方、オンプレミス環境へのニーズは根強いため、SIerのクラウドへの取り組みは二極化が進んでいる。乗り遅れたSIerはどうするべきか。国内を代表するクラウドインテグレータ(CIer)のアイレットが、動き出した。(畔上文昭)

得意分野で補完関係を築く

 AWS(Amazon Web Services)のフルマネージドサービスを提供するcloudpackの運営会社、アイレットは、SIerやISVを対象とするパートナーシップ制度「cloudpackアライアンスパートナー」を5月30日に発表した。cloudpackは、これまでもSIerやISVとさまざまなかたちでアライアンスを組んできたが、今回改めて制度化した。その狙いについて、中川誠一執行役員は次のように語る。
 

中川誠一・執行役員 Cloudpack事業部長。旗は、Cloudpackのパートナー企業

 「これまでは小さな案件から大規模なものまで、なんでも請けてきた。それも、ソリューションに特化したり、産業に特化したりすることなく、全方位で対応してきている。ただ、それでは社内のエンジニアで対応するのに限界があり、取り扱える案件数を増やすことがなかなかできない。とはいえ、何かに特化するようなこともしたくない。SIerやISVとの協業は、この課題を解消する一つの答えとなる」。得意分野をもち、ユーザー企業の業務を熟知しているSIerやISVと協業することで、cloudpackのビジネス拡大を狙う。

 パートナーシップ制度の発表以来、多くの問い合わせがきているという。「クラウドには取り組んでいるものの、ユーザーのニーズがオンプレにあったことから、これまで注力してこなかったSIerは多い。なかには数百人体制でクラウド系のエンジニアを育てているSIerもあるが、多くは小さな組織を置いている程度で、日々進化するクラウドの最新動向を抑えきれていない。これから取り組むには時間がかかるため、諦めてしまいがち。そうしたSIerから問い合わせがきている。SIerにとっても、AWSの最新動向を追う必要がないため、得意とするアプリケーションのレイヤに注力できる」と、中川執行役員は説明する。

エンタープライズはこれから

 パブリッククラウドがオンプレミスで提供されている環境と同等以上のサービスを提供できると認知されるようになってから、ユーザー企業でクラウドファーストが意識されるようになった。メガバンクでクラウドが採用されるようになったことも、クラウドファーストを後押しした。

 ただし、オンプレミスが根強く残っているのも事実。そこには、クラウドファーストが認知されても、実態が伴うまでには時間がかかる。

 「クラウドファーストといわれているが、クラウドを採用するシステムはゲーム系やウェブ系が多い。基幹系にも広がってきてはいるが、先進的なユーザー企業に限られる」と、中川執行役員は現状を分析する。ただ、風向きがようやく変わってきそうだとのことで、cloudpackは基幹系システムに注力すべく、パートナーシップ制度を整備した。

 ユーザー企業がクラウドの提案を求めるとなると、オンプレミス環境に注力してきたSIerはユーザーニーズに応えられなくなってしまう。そこで、cloudpackを頼るということになる。

 「SIerの問い合わせは、大きく二つに分けられる。一つは、こういう案件があるけど、どう対応したらいいのか教えてほしいというもの。役割をきっちり分けられるため、当社としても対応しやすい。もう一つは、仕事が欲しいというもの。前者はいいが、後者のケースはWin-Winの関係にならないため、パートナーシップを組むのは難しい。単なる案件紹介はしていない。ただし、当社へのエンジニア派遣は受け入れている。ある程度のスキルのあるエンジニアであれば歓迎したい」と、中川執行役員。ノウハウ習得の目的でも構わないとしている。

IoT事業は協業が不可欠

 アイレットは今年1月、KDDIの傘下に入った。目的はIoT分野へと事業領域を拡大することにある。その背景について、中川執行役員は次のように語る。

 「新たな事業を展開するにあたって、IoTがクラウドとの親和性の高い領域だったということ。すでにIoT事業の専門チームも立ち上げた。IoT分野は範囲が広く、1社では対応できない。当社はKDDIの子会社になったが、買収というよりも協業の意味合いが強い。KDDIだけでなく、さまざまな企業と協業していきたい。今回のパートナーシップ制度の整備は、その意味合いも大きい」。KDDIグループになることで、IoT事業を加速させやすいとの判断があったという。

 クラウド同様、IoTに関しても、対策の遅れに危機感を抱くSIerは多い。IoTとクラウドは親和性が高いことから、CIerとの協業をIoT事業の第一歩として検討してもよさそうだ。
  • 1