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<Special Interview>中国ベンダーのクラウド戦略 上海泛微網絡科技
2017/06/22 09:00
週刊BCN 2017年06月19日vol.1682 第2部掲載
【上海発】中国のクラウド市場が活気づいている。中国工業和信息化部(工信部)は4月10日、「クラウドコンピューティング発展三年行動計画(2017~19年)」を発表。19年のクラウド産業規模を15年比で3倍弱の4300億元にする目標を掲げた。一方ITベンダーでは、ビジネスモデルの面で課題も残る。クラウドビジネスに力を注ぐソフトウェアベンダー、上海泛微網絡科技(Weaver software)の金戈副総裁に、自社の取り組みや市場の実際について話を聞いた。(上海支局 真鍋 武)
社員は約2000人を抱えていて、国内に約100のサービス拠点を有しています。中国全土のお客様からの問い合わせに対して、2時間以内に現地に駆け付けてサポートすることができます。
──どんなプロダクトを提供しているのですか。
金 中国ではOAと呼んでいますが、海外ではBPA(Business Process Automation)と呼ばれる領域のソフトウェアを提供しています。主力製品は、大中規模企業向けの「e-cology」と、中小企業向けの「e-office」。これまでに約1万社のお客様を獲得してきました。
簡単に説明すると、当社製品は企業のなかの全社員がつながって、情報を共有したり作業したりできるプラットフォームです。例えば、経費精算などのワークフローを管理したり、社内のデータベースを蓄積・閲覧したりすることができます。また、スケジューラや日報・進捗の管理機能も備わっていて、全社員の状況をリアルタイムで把握することが可能です。
──クラウドの取り組みについて教えてください。
金 多方面でクラウド化を進めています。まず、もともとパッケージソフトとして提供してきた「e-cology」について、IaaS「阿里雲(Alibaba Cloud)」上での提供を始めました。ITリソースは「阿里雲」、ソフトウェアは当社が提供するスキームです。既存顧客のマイグレーションを進めるとともに、新規顧客の獲得を進めています。
次に、弊社独自のクラウド基盤から提供する中小企業向けSaaS「eteams」です。こちらは、e-cologyのような複雑な運用は不要で、インターネット上で簡単に登録して利用を開始することができます。ただし、機能は限定されていて、お客様の需要を完全には満たせていません。そこで、eteamsではPaaSのサービスも提供しています。
これに加えて、インスタントメッセンジャー(IM)「e-message」や、いろいろなアプリケーションとe-cologyを連携させるミドルウェア「e-Bridge」なども提供しています。e-Bridgeでは、例えばアリババグループの「釘釘」、テンセントの「企業微信」、金蝶国際軟件の「雲之家」などと連携し、これらアプリからe-cologyを操作することが可能です。
また、標準提供していないモジュールについては、「e-cloudstore」から追加することができます。これは、いわばクラウドアプリのマーケットプレイスで、自社だけでなく、パートナーが開発したプロダクトも提供しています。
──中国のクラウド市場については、どうみていますか。
金 中国では、比較的に早い段階でソフトウェアベンダーによるクラウドへの関心が高まり、多くのSaaSが提供されてきました。しかし、競争は激しくて、各社はユーザーを早期に囲い込むために、無料ないしは非常に安価でサービスを提供しています。この結果、何年経ってもSaaSでは儲からず、将来性が見込めないという事態が生じています。このことは、中国のクラウド市場における反省点です。
一方で、お客様の声に耳を傾けてみますと、意外にも彼らは価格を気にしてはいません。むしろ、重要視しているのは、自社のニーズに深く対応してくれるカスタマイズ性です。この需要に対応するには、PaaSの提供が有効。そこで当社は、eteamsでPaaSを提供しているのです。
──確かに調査会社のデータをみると、中国のクラウド市場ではPaaSの規模が極端に小さいです。なぜ普及してこなかったのでしょうか。
金 そうですね。中国では、ユーザーが目に見えるモノを好む傾向があるので、そうではないミドルウェアについては、優先的に提供するITベンダーがほとんどなかったのです。そうすると、まずはSaaSを提供してからPaaSに取り組むことになります。実際、当社がeteamsを始めたのは14年ですが、PaaSの提供は16年からです。
現在、eteamsでは、無料で使っているユーザーが大部分で、有償利用はまだ1000ユーザー程度です。PaaSの提供によって、有償利用を増やしていきたいところです。
──今後の展開について教えてください。
金 お話ししたクラウド化に加え、モバイル化、スマート化、プラットフォーム化を推進していきます。多様なモバイルデバイスでサービスを使えるようにして、音声を通じて操作できるAI機能などを盛り込みスマート化を進め、多様なシステムと連携できるプラットフォームにつくり上げていきます。
また、上場してからの新しい方向性として、グローバル市場の開拓を模索していきます。チャンスがあれば、日本のIT企業とも一緒に仕事がしたいと考えています。中国では、日系企業のお客様もあって、当社製品の日本語対応は進んでいます。よいパートナーをみつけて、日本市場に当社製品を広げていきたいですね。
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