「Dynamics」製品を軸にシステム構築事例セミナー
パシフィックビジネスコンサルティング(PBC、小林敏樹代表取締役社長)は4月11日、東京・品川の日本マイクロソフト本社で、「気になる!?あの会社のシステムデザイン “業務システム構築事例”セミナー」と題して、ユーザー向けのセミナーを開いた。マイクロソフトの業務アプリケーション製品群である「Dynamics」の先進導入事例セッションや、ビジネスソリューションそのものの進化のトレンドを解説する基調講演を展開。業務アプリケーション市場が新しいフェーズに入ったことをうかがわせる内容に、参加者も熱心に耳を傾けていた。(取材・文/本多和幸)
2層ERPの2層目に最適なNAV
PBCは、Dynamics製品では国内有数の豊富な実績をもつ。中小中堅企業(SMB)向けのERPパッケージである「Dynamics NAV」は、グローバルでそれぞれの地域のパートナー企業が製品のローカライズを行うという独特なエコシステムをもつ製品だが、日本企業向けの言語・商慣習対応のローカライズを担ってきたのがPBCだ。また、マイクロソフトが中堅規模以上の企業を顧客対象として開発・販売してきた「Dynamics AX」(現「Dynamics 365 for Operations」)についても、医薬・化粧品業界向けのマイクロソフト認定アドオンソリューション「AX for Pharma」を日本市場向けに展開するなど、有力パートナーとして大きな存在感を示している。
セミナーではまず、同社が導入にかかわった事例について、ユーザー企業側の担当者が登壇し、システム導入を成功に導くポイントや、実際のプロジェクトで直面した課題、それをどう乗り越えたかなどを解説した。
旭化成メディカル
上野公志
経営統括総部情報システム部
部長
旭化成メディカルの上野公志・経営統括総部情報システム部部長は、「グローバルIT戦略とTier2 ERP」と題して、Dynamics NAVで海外拠点のシステムを統一した事例を紹介した。同社は2009年頃から、グローバルに分散した経営拠点の情報を一元的に把握すべく、海外拠点へのERP導入を段階的に進めた経緯がある。海外拠点にはDynamics NAVを採用し、本社で導入している独SAPのERPと連携させる「2層ERP」戦略を採り、11年には一応の完成をみた。結果的に、在庫、売り上げ、財務諸表など、各海外拠点のデータを日時ベースで可視化することに成功したが、「導入の経緯や導入主体、導入ベンダーが各拠点各様だったため、連結ベースでの可視化や保守の安定性・効率性、ガバナンスといった点で課題が出てきた」(上野部長)という。さらに、既存システムの保守切れも迫り、17年には本社のERPのバージョンアップを行うことが決まっていたことから、情報システム部が主導し、14年夏から、2年4か月で6法人8か国12サイトのシステムを再構築するプロジェクトに着手した。
再構築にあたっては、可能な限り各現地法人の業務の標準化やNAVの機能の共通化を行い、ガバナンスも強化。本社側で全体要件を定義し、それをベースに各現地法人に展開した。上野部長は、「グローバルにビジネスを展開する企業では、2層ERPが最適なケースは多いと感じているが、ExcelやWordと親和性が高く、グローバルでの導入実績が非常に豊富なNAVは2層目のERPとして極めて有用。今回は時間の制約が非常に厳しいプロジェクトだったが、経験豊富で確かなノウハウをもつベンダーとの協業や部内メンバー、現法スタッフの協力によりプロジェクトを完遂できたことは大きな成果」だと強調した。
マイクロソフトの機械学習活用事例も
セキュア
深尾之博
経営管理部業務購買課
課長
セキュアの深尾之博・経営管理部業務購買課課長は、Dynamics NAVと「Dynamics CRM」(最新バージョンは「Dynamics 365 for Sales)を約3か月で短期導入した事例を紹介した。同社はもともと「Office 365」のユーザーで、CRMはセールスフォース・ドットコム、財務会計アプリケーションはミロク情報サービス製品を使っていた。しかし、売り上げの拡大により処理件数の限界がみえてきたり、多様な販売形態への対応、コスト負担などが課題として浮上していた。その解決策として、Dynamics NAVとDynamics CRMを組み合わせて新たに採用した。Office 365も含め、ネイティブに連携するマイクロソフト製品群の強みを生かし、システムとして創出できる価値や業務の効率性を大幅に向上させたという。深尾課長は、「短期導入を実現できたのは、業務にシステムを合わせるのではなく、パッケージのメリットを最大限生かすべくシステムの標準機能に業務を合わせたこと、さらには一部業務はExcelなどを使い、最小構成で稼働したこと、データ移行をユーザー受け入れテスト、ユーザートレーニングを兼ねて行ったことが大きなポイントになった」と振り返った。
日本マイクロソフト
小林正文
業務執行役員
ファイナンシャル
ディレクター
基調講演には、日本マイクロソフトの小林正文・業務執行役員ファイナンシャルディレクターが登壇した。小林業務執行役員は、「ファイナンス・経営企画部門における機械学習の活用例」と題して、マイクロソフト自身のファイナンス部門における「Azure Machine Learning」(クラウドサービスとして利用できるマイクロソフトの機械学習プラットフォーム)活用の取り組みを解説した。「機械学習とは」という用語の整理をしたうえで、PCの価格設定や月次売上予想など、ファイナンスの実務への活用事例をデモを交えて紹介。機械学習を実際に使ってみた実感として、「機械学習で最も大切なのは、入力するためのデータであり、マスターデータマネージメント、つまりはデータの標準化が非常に重要になる」と指摘した。
PBC
吉島良平
取締役戦略事業推進室長
主催者であるPBCからは、吉島良平・取締役戦略事業推進室長が登壇した。LINEなどのSNSやAzure Machine Learning、Botサービスなど、新しい技術・サービスとマイクロソフトのERP製品などが連携することで、ビジネスソリューションの世界に大きなイノベーションが起きていることを解説し、全セッションを締めくくった。