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アマゾン ウェブ サービス ジャパン 準拠法および裁判地とも日本法の適用が可能に ラージエンタープライズ市場を意識
2017/04/20 09:00
週刊BCN 2017年04月17日vol.1674掲載
リセラーに選択権
写真左から、NECの川井俊弥・SI・サービス市場開発本部エグゼクティブエキスパート、
アマゾン ウェブ サービス ジャパンの今野芳弘・パートナーアライアンス本部本部長、
NTTデータの濱口雅史・ビジネスソリューション事業本部データセンタ&クラウドサービス事業部長
アマゾンのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」は、これまで米国法の適用下にあった。グローバル共通のサービスで、地域を意識せずに利用できるというコンセプトに則ったものだが、米国による強制捜査の可能性があるため、日本では懸念されがちだった。
代表的なのは、米国パトリオット法。テロの防止が目的の法律であることから、テロにかかわらない限り適用されないと考えられるが、最悪の展開を考慮しなければならない。そのため、米国法で裁かれてしまうというカントリーリスクを考慮すると、AWSの採用を見送ることになる。
「日本法の適用については、日本の企業からの要望が多かった。日本で対応策を検討したところ、対応可能ということで、今回の発表に至った。国によっては法整備が進んでいないなどの理由から、むしろ米国法の適用を望むケースがある。そのため、日本独自の対応となる」と、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの今野芳弘・パートナーアライアンス本部本部長は語る。データ管理の規制が厳しい欧州でも、今後は同様の対応をすることが考えられる。
今回の発表によると、米国法か日本法かの選択はユーザーの要望次第ということになる。既存のエンドユーザーも、契約を見直すことにより、変更が可能になるとしている。
日本法の適用が可能になったAWSだが、最大の競合相手であるマイクロソフトのクラウドサービス「Azure」では当初から日本法の適用下にあった。AWSはそれに追いついた格好となる。
マイクロソフトは、オンプレミス環境での実績やハイブリッドクラウド環境が構築しやすいなどによってAzureのシェアを高めてきたが、日本法の適用下にあることも多少は追い風になっていた。実際、日本法の適用下にあるかどうかは、AWSとAzureの違いとして論じられがちなポイントでもあった。
エンタープライズへシフト
当初はウェブ系やゲーム系での採用が多かったAWSだが、近年ではエンタープライズ分野、それもラージエンタープライズ分野での採用を意識したサービス展開に注力している。ミッションクリティカルなシステムの稼働を想定した「Amazon EC2 - X1インスタンス」は、その一つ。SAP認定の「SAP HANA IaaS Platforms」であり、サーバーに高いパフォーマンスを要求する「SAP S/4HANA」が快適に稼働するのがポイントとなっている。パートナー戦略については、AWSの特定サービスに強く、複数の実績をもつパートナーを認定する「AWSサービスデリバリープログラム」を新たに用意。また、専門技術分野や特定分野におけるソリューションをもつパートナーを認定する「AWSコンピテンシー」では、新しいカテゴリを追加。これらにより、エンタープライズ分野のユーザーが、AWSのパートナーを選択するにあたっての目安にできるようにした。
ラージエンタープライズ分野への注力においては、2016年12月にAPNプレミアコンサルティングパートナーにNECとNTTデータが昇格したのも特筆すべきポイントである。両社は国内のプレミアコンサルティングパートナー7社のうちの2社で、大型案件で不可欠な大手SIerがAWSにコミットしたことの意義は大きい。
NECは、今後2年間でAWS関連事業の売上目標を累計120億円としており、AWS認定資格の最上位である「Solutions Architect Professional」を17年度で50名体制に強化することを目指している。NECの川井俊弥・SI・サービス市場開発本部エグゼクティブエキスパートは、「120億円はあくまでもファーストステップ。プレミアコンサルティングパートナーに昇格したことで、以前ならアプローチできなかった企業や団体から依頼がきている。パイプライン(見込み顧客・案件)は今、100件ほどになっている。これらをAWSと一緒にクロージングしていきたい」と今後の展開に自信をみせる。
一方、NTTデータの濱口雅史・ビジネスソリューション事業本部データセンタ&クラウドサービス事業部長は「公共分野や金融分野など、ラージエンタープライズの分野でクラウドへの関心が高まっている。事業体制の整備により、AWSへの取り組みを強化しているが、案件が多すぎてこなしきれていない。技術者不足が最大の課題となっていて、対応策としてパートナー企業とのアライアンスを進めている」と、クラウドのニーズが大型案件にシフトしている状況を説明する。当初はコスト削減を目的するケースが多かったが、最近では新規事業やグローバル事業に不可欠な環境としてのクラウド採用が増えているという。「AWSは単なるツールではなく、ビジネスプラットフォームになる。そこを志向していきたい」と濱口事業部長は語った。
大型案件を手がけるNECやNTTデータでは、ユーザーがAWSの採用を検討するにあたって、実際に米国法の適用下にあることを懸念する声があったという。NECの川井エグゼクティブエキスパートは、「当社は、自社のクラウドサービスも提供しており、ユーザーニーズに応じて最適なクラウドを提供している。ただ、AWSは実績があるし、採用したいと望むユーザーも多い。そこに日本法の適用を選択できるのは、間違いなく追い風になる」と今後の展開を期待する。
パブリッククラウド市場では圧倒的な存在感を誇るAWSだが、エンタープライズ分野に限るとマイクロソフトやIBMのクラウドサービスが、オンプレミスでのノウハウや実績を生かした強さをみせている。むしろ、両者の牙城を切り崩す立ち位置にあるともいえる。日本法の適用が可能になったことで、機密情報を扱う企業のAWSに対する懸念が一つ消えた。エンタープライズ分野におけるクラウドのシェア争いが、ますますおもしろくなりそうだ。
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