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<THE決断!ユーザーのIT導入プロセスを追う>AI活用で感情表現に挑戦 おしゃべりコミュニケーションゲームを開発

2017/03/16 09:00

週刊BCN 2017年03月13日vol.1669掲載

 ゲーム開発大手のカプコンは、プレイヤーと美少女キャラクターが自由に会話を楽しめるソフトづくりを模索していた。感情表現が豊かな会話を携帯型ゲーム機でどのように実現するかが課題であり、ここに東芝のコミュニケーションAI(人工知能)「RECAIUS(リカイアス)」を活用。カプコン独自の技術も融合しつつ、「めがみスピークエンジン」を開発し、感情表現の課題解決に結びつけた。

【今回の事例内容】

 

<導入企業>カプコン
カプコンは、「めがみめぐり」をはじめ「モンスターハンター」「バイオハザード」「ストリートファイター」「ロックマン」など人気タイトルを多数もつ大手ゲームメーカー

<決断した人>
「めがみスピークエンジン」を共同開発したメンバー。
左から東芝の河西英城主務、田村正統参事、
カプコンの山東善樹サウンドディレクター、
野中大三プロデューサー

<課題>
携帯ゲーム機でゲームキャラクターと感情豊かな会話を実現したい

<対策>
東芝のコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」の音声合成エンジンを採用

<効果>
携帯ゲーム機の限られたITリソースでも豊かな会話を実現

<今回の事例から学ぶポイント>
限られた仕様のなかで、コンピュータによる感情表現を極限まで引き出した

「音声合成」で仕様をクリア

 ゲームのキャラクターをしゃべらせるには、声優の声を録音して、プレー中のシーンに合わせて再生するのが一般的だが、この方式ではどうしてもデータの容量が大きくなりすぎてしまい、CPUやストレージの容量が限られた携帯型ゲーム機には馴じまない。かといって会話データを減らすとシナリオ展開に大きな制限がかかってしまう。

 ゲームの骨子は全国9000余りの鉄道の駅を“すごろく”に見立てて美少女キャラクターとともに旅をするというもので、カプコンの野中大三・第四開発部プロデューサーは、「全国津々浦々の駅に対応することで、一人でも多くのプレーヤーに共感してもらいたい」と考えていた。そうなると駅名などの固有名詞は増えるし、会話の内容もより地域色豊かなものにしなければならない。

 プレーヤーがいまどこの駅にいるかは、Suicaなどの交通系ICカードと、携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」のICカード読み取り機能を連動させる。“駅すごろく”や“交通系ICカード連動”といったゲームの枠組みが次々と決まっていくなか、会話システムをどう構築するかが課題として残されていた。
 

「めがみめぐり」イメージ(公式HPより)

 会話エンジンを模索していた2015年頃、AIを活用して音声合成などを行う東芝のコミュニケーションAI「RECAIUS」の存在を知る。

 RECAIUSは、東芝の音声認識や音声合成、翻訳、意図理解、顔・人物画像認識などのメディア知識処理技術を体系化したAIシステムで、なかでも音声合成は定評があることがわかった。さっそく東芝に打診したところ、カーナビゲーションの音声案内の用途といった車載機器向けの組み込みで実績が豊富で、この「組み込み技術を応用することで携帯ゲーム機への実装も可能になる」(東芝の河西英城・メディアインテリジェンス技術支援担当主務)ことから採用を決めた。

「感情表現」の壁に突きあたる

 音声合成は、音声の録音データに比べて遥かに少ないデータ量で、より多くの会話シナリオを収録できる。ニンテンドー3DSを片手に全国の駅を巡るのにぴったりの方式だったが、ここで大きな壁に突きあたることになる。それは、開発するゲームのキャラクターが「美少女」であることだった。

 RECAIUSは、カーナビやコンタクトセンターといった感情の抑揚を抑えた、いわゆるアナウンサー口調の会話システムへの適用が比較的多く、せっかくの美少女がアナウンサー口調では興ざめしかねない。ビジネス用途をはじめとする実用的な用途を得意とする“お堅い”東芝らしいところでもあるが、しかし、そのままでは美少女キャラクターにふさわしい感情豊かな表現は難しい。

 音声部分を担当したカプコンの山東善樹・サウンド開発室サウンドディレクターは、「感情豊かな会話でプレーヤーをゲームの世界に誘う」ことを目標に掲げ、東芝と二人三脚で研究開発に没頭した。そして、山東ディレクターらが開発したのが、音声合成で生成したフレーズの前後に「エヘッ」や「ウフッ」「ヘェ」と、女の子らしい感嘆音を入れる手法を開発し、感情の表現力をぐっと高めることに成功している。

 感嘆音は声優の声を実際に収録し、RECAIUSによる音声合成と連動して再生する独自の仕組み「めがみスピークエンジン」を開発。この中核部分を「オセロットシステム」と命名し、特許も申請している。

 さらにRECAIUSのさまざまなパラメータを調節することで喜びや驚き、怯えといった感情豊かな声をつくりだした。東芝の田村正統・メディアインテリジェンス商品開発担当参事は、「ここまでRECAIUSの感情表現を引き出したのはカプコンが初めて」と、RECAIUSの開発者でさえ舌を巻くほど完成度を高めた。

 こうして、16年12月配信にこぎ着けたのがおしゃべりコミュニケーションゲームの「めがみめぐり」だ。交通系ICカードに宿った新米の付喪神“ツクモ”が、ユーザーとともに鉄道の旅に出るストーリーで、配信後の初動で25万ダウンロードと好調なスタートを切り、今年1月には40万ダウンロードを超える人気作となった。(安藤章司)
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