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OBC 小規模法人向けクラウド会計に本格参入 「奉行」の一大転換点となる可能性も
2017/01/12 09:00
週刊BCN 2017年01月09日vol.1660掲載
freeeやマネーフォワードが市場の可能性を証明してくれた
「freeeさんやマネーフォワードさんが、ここに大きく伸びる可能性をもつ潜在的な市場があるということを証明してくれた」――。OBCの和田社長は、小規模法人向けクラウド業務ソフト市場に本格参入した理由について、端的にこう説明する。和田成史
社長
しかし、小規模法人向けの業務ソフトは、ベンダーを問わず、会計/税理士事務所が最も有力なチャネルとして機能しており、中堅・中小企業向け製品とは流通構造が異なる。OBCはもともとデスクトップ版の小規模法人向け業務ソフトとして奉行Jシリーズを販売しており、これも会計/税理士事務所を主要チャネルとして、4~5万社のユーザーを獲得してきた。OBCが、freeeやマネーフォワードが先鞭をつけた小規模法人向けの業務ソフト市場の現状をみて、今後の成長が期待できる市場であると判断したことは事実だろうが、同社の強さを支えてきた既存のパートナーのビジネスモデルと衝突しないかたちでクラウドビジネスにチャレンジできる領域だったことも、奉行Jクラウドの背景としては重要だ。
性能、セキュリティに徹底してこだわった
ただし、有望市場に本格参入するとしても、単なるフォロワーでは競争力を発揮できない。和田社長は、先行するベンダーをよく研究し、奉行Jクラウドには多くの差異化ポイントを盛り込んだと強調。次のように説明する。「先行するクラウド会計は、ウェブアプリケーションとして提供されていて、操作性、パフォーマンス、機能などに限界があった。SaaSであっても、ここに妥協しては顧客基盤が広がらないと考えた。奉行Jクラウドは、WPF(Windows Presentation Foundation)でつくったWindowsのネイティブアプリであり、従来の奉行シリーズと遜色ない使い勝手を実現した。従来の奉行Jシリーズの延長ではなく、3~4年の時間とかなりのコストをかけ、まったく新しいアーキテクチャ、最新の技術でつくりなおした次世代製品だ。また、クラウドのインフラとしてはMicrosoft Azureを採用した。データはマイクロソフトの複数の国内DCに置き、バックアップも万全にしているほか、SQL Databaseも使い、高いパフォーマンスとセキュリティを両立している。このあたりのコストのかけ方は、他のベンダーとはレベルが違うと自負している」。奉行Jクラウドの価格は4980円/月と、小規模法人向けクラウド会計の競合に比べて割高だが、サービス内容を踏まえた評価であれば勝負できるということのようだ。さらに注目したいのは、会計だけでなく、税務申告までを一気通貫に完了できる機能を備えたことだ。ユーザー企業が、顧問の会計/税理士事務所とクラウド上でデータ共有できるだけでなく、会計/税理士事務所側は、顧問先企業の一元管理や税務申告業務の一括処理も可能になる。会計/税理士事務所向けのライセンスは、1IDが無償で付与される。現在、OBCの会計/税理士事務所向けパートナープログラム「ASOS」の会員は1500事務所ほどだが、これを拡大するための追い風効果を見込んでいるという。
このほか、金融機関との連携による新たな融資サービスへの会計データ活用や、ウェブAPIの提供による他社クラウドサービスとの連携、蓄積したビッグデータをもとにした業種・業界別のKPI分析比較などとのマッチングといったサービスも順次始める予定で、OBCにとっては、奉行Jクラウドが基幹業務ソフトの新しいビジネスモデルの試金石となる可能性がある。この影響が、従来の主力である中堅・中小企業向けの業務ソフトビジネスに波及する影響を和田社長は否定していない。「既存パートナーに、奉行Jクラウドを事務機とセットで拡販してもらうという新しい連携も考えている」としており、これがうまくいけば、奉行iをクラウドネイティブに刷新し、SaaS化を進める方向に舵を切ることも考えられそうだ。
一方で、法人向けのクラウド会計市場はまだまだ黎明期であるのも事実だ。freee、マネーフォワードといったパイオニア、さらには小規模法人向け業務ソフトの王者である弥生にしても、売り上げという意味では十分な結果を出しているとは言い難い。OBCがここに参入し、実際にどれだけの成果を挙げられるかは未知数だが、新たなビッグプレーヤーの参入で、市場そのものが一気に活気づく可能性もある。
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