「CRMやERPは死に絶える」。米マイクロソフトのフランク・ホランド・Corporate Vice Presidentは、まもなくリリースとなる「Microsoft Dynamics 365」を説明するにあたってそう主張した。Dynamics 365は、CRMでもERPでもなく、同社が注力分野として繰り返しアピールしている「デジタルトランスフォーメーション」のプラットフォームということだ。(畔上文昭)
プロセスをデジタル化するプラットフォーム
7月6日に米国で発表されたDynamics 365。CRMとERPのスイート製品とも呼ぶべきクラウドサービスだが、ホランド氏は「ビジネスプロセスをデジタル化するためのプラットフォームである」ことを強調する。Dynamics 365はCRMやERPとして利用できるため、それぞれを統合したクラウドサービスという理解は決して間違いではない。ただ、それはマイクロソフトが描く、Dynamics 365の役割ではない。ホランド氏が「CRMやERPは死に絶えた」と強調するのは、そのためだ。
キーワードは、「デジタルトランスフォーメーション」である。CRMやERPといったアプリケーションの守備範囲でビジネスを支援するのではなく、製品開発から顧客情報までをデジタルでつなぐことによって、製品のライフサイクルに加え、企業のビジネスプロセスを含めた全体最適化をサポートすることを目指している。例えば、服につけたセンサから顧客の情報を得る。その情報と業務システムをつなぎ、営業活動や製品設計などに活用していく。ビジネスプロセスをデジタル化し、それをシームレスにつなぐのである。
「CRMは、営業担当者が営業活動のなかで得た顧客の情報を入力している。営業担当者が顧客をみていないとデータ化ができない」とホランド氏。CRMではデータ化を営業担当者に頼ることになるため、不十分な情報となってしまう可能性がある。そこでIoTやAI(人工知能)などのソリューションを活用し、営業担当者に頼らないデータ化を実現しようというわけだ。そして、データの受け皿となり、ビジネスプロセスのデジタル化をサポートするのが、Dynamics 365となる。

フランク・ホランド・Corporate Vice President、Dynamics Sales&Partners(写真左)、
サイモン・デイビス・Vice President Dynamics(Microsoft Asia)
ユーザー企業の要求はエコシステム全体の統合
図1は、マイクロソフトが提案するデジタルトランスフォーメーションのイメージ。これまで企業が別々に取り組んでいた「製品を変革」「業務を最適化」「社員にパワーを」「顧客とつながる」という四つの項目の境目が、デジタルトランスフォーメーションによってなくなるとしている。

「ユーザー企業は、何年も前からエコシステム全体の統合を要求していた。ユーザー企業が望んでいるのは、ERPやCRMを導入することではない。ビジネスの課題解決を望んでいる」と、サイモン・デイビス・Vice Presidentは語る。Dynamics 365は、それに応えるデジタルトランスフォーメーションのプラットフォームという位置づけになる。
ちなみに、図2でDynamics 365の上にある「Microsoft AppSource」は、マイクロソフトのパートナー企業がアプリケーションを提供できるマーケットプレイスである。国内パートナーのものはまだないが、グローバルではすでに200を超えるアプリケーションが用意されているという。「AppSourceでは、主に業界固有のソリューションを提供している。例えば、金融機関からの要望にどう応えるべきかと迷ったときに、AppSourceをみていただければ、そこにソリューションがあるというイメージ。トライアルで利用することも可能になっている」とホランド氏は説明する。ただし、日本向けは現在準備中とのことである。

デジタルトランスフォーメーションのプラットフォームという位置づけのDynamics 365。ベースとなっているのは、マイクロソフトが提供してきたCRM製品「Dynamics CRM」やERP製品「Dynamics AX」である。新たにDynamics 365になったことで、どこまでCRMやERPのイメージを払しょくできるのか。デジタルトランスフォーメーションとしての成功事例がカギを握ることになるだろう。