6月1日、安倍晋三首相は、消費税引き上げを2019年10月に再延期すると発表した。「世界経済が大きなリスクに直面している」ことが理由として挙げられたが、IT業界では、消費税改正が業務ソフト市場などに“特需”をもたらすと期待されていたこともあり、「あてが外れた」と、内心頭を抱えている関係者も少なくないだろう。そんななか、オービックビジネスコンサルタント(OBC、和田成史社長)は、消費税引き上げ再延期を逆に好機と捉え、近年進めてきた事業ドメイン拡大の取り組みを盤石なものにしようとしている。(本多和幸)
消費税以外にも 対応すべきことは山積み
2014年4月の消費税率8%への改正は、「Windows XP」のサポート終了のタイミングと重なったこともあり、業務ソフト市場に空前の特需をもたらした。しかし、その後は大きな反動があり、業務ソフトメーカー各社や販売パートナーは難しい舵取りを迫られたのも確か。そうした事情もあって、当初の15年10月から17年4月にすでに一度延期されていた消費税率10%への二段階目の引き上げは、業務ソフト市場でも、二段目の成長エンジンとして期待する声は大きかった。

和田成史
社長 少なくとも今年の5月までには、各社とも17年4月の消費税改正を前提として、製品アップデートや拡販施策、サポート体制の整備を検討していたはずだが、結局は再延期という結果になった。これについて、中堅・中小企業向け基幹業務ソフトのトップメーカーであるOBCは影響をどう評価しているのだろうか。和田社長は、意外にもポジティブな反応をみせた。
「消費税改正に対するマーケットの期待は確かに大きかった。しかし、実はほかにも制度改正は山のようにある。直近では、マイナンバーや昨年末に施行されたストレスチェック制度への対応もそうだし、来年1月には改正電子帳簿保存法で規制緩和もされる。改正育児介護休業法の施行も控えているし、改正労働基準法もいずれ施行される(現在は継続審議に)。消費税改正はもっとも重要な税制関連の法改正だが、今回延期されなければ、こうした他の法制度改正への対応まで手が回らず、後回しになってしまっていた可能性がある。消費税改正の再延期で法制度改正対応がある程度分散されることになるので、いまやるべきことをしっかりやる時間を取ることができる」。
法・制度改正に 将来にわたって対応する
具体的には、主力業務ソフトパッケージの最新版である「奉行10」シリーズ、そして昨年から本格的に事業展開している新商材の「業務サービス」の価値を市場に浸透させることに注力する方針だ。
消費税改正の再延期や、労働基準法改正の度重なる継続審議扱いなどが象徴的だが、法・制度改正はスケジュールが予測困難なため、奉行10については、制度改正やITの革新を含むあらゆる環境変化に将来にわたって対応することを保証するサポートサービス「OMSS LLS(Long Lifecycle Support)」を提供している。
また、マイナンバーやストレスチェックへの対応のように、法・制度改正や社会環境の変化により、既存のバックオフィス業務と深く関連はするものの、従来の基幹業務システムの機能の延長ではカバーしきれない新しい業務が発生することもある。OBCは、こうした業務を支援するクラウドサービスを、業務サービスとしてラインアップしている。「マイナンバーサービス」や、ストレスチェック制度対応のオールインワンサービス「ストレスチェックサービス」などをはじめ、すでに複数のサービスをリリースしており、随時拡充している。今年9月には、労基法改正を見据え、従業員の多様な働き方をマネジメントできる勤怠管理サービスをリリースする予定だ。ちなみに奉行10は、この業務サービスとの連携機能もセールスポイントの一つとしている。
OBCは、これらの新しい製品群により、「従来のパッケージソフトや関連するサポートサービスのライフサイクルの概念を超越して、予測困難な法・制度改正に将来にわたって対応できるという新しい価値を実現した」と自信をみせる。19年4月の消費税改正も含めて、あらゆる法・制度改正に対応できる製品・サービス群であることを、すでに施行のスケジュールがみえている個別の労働関連法改正や税制関連法改正に合わせて、きめ細かく周知していきたい考えだ。
小規模法人向けには SaaSで業務ソフトを
また、OBCは、クラウド対応についてもさらに一歩踏み込んで進める意向を示している。小規模法人向け業務ソフトの「奉行J」シリーズのSaaS版を、今年10月をめどにリリースする計画だ。今年6月には、小規模法人向けのクラウド会計ソフトで実績を伸ばしてきたfreeeが、OBCの主戦場である中堅・中小企業向けの基幹業務ソフト市場に進出すると発表した(本紙1633号で既報)が、OBCは逆にfreeeの主戦場へ乗り込んでいく。まさにカウンターアタックともいえそうな動きだ。
奉行10もクラウド対応はしているが、パートナーのビジネスモデルへの影響を最小限に抑えるために、クラウド環境の構築はパートナーに任せていて、OBC自らがSaaSとして提供するという選択肢は採っていない。しかし、小規模法人向け業務ソフトの市場は会計事務所などが有力チャネルとして機能しており、奉行10とは流通構造が異なることから、奉行Jシリーズで先行してSaaSのビジネスモデルにチャレンジするというわけだ。OBCは過去に、個人事業主向けの「奉行J Personal」で、SaaSのベータ版を提供したこともあり、そうした取り組みによって得たノウハウも反映させていく。
さらに和田社長は、「奉行シリーズのAPIを公開することで、さまざまなクラウドサービスと連携させるエコシステムの構築も視野に入れている」ともコメントしており、パートナービジネスのさらなる拡大も図る意向だ。