セゾン情報システムズ(内田和弘社長)は今年度(2017年3月期)、ファイル転送ツール「HULFT(ハルフト)」の事業領域を拡大する。市場では、従来のアジア・ASEANに加え米国に本格進出する。金融やヘルスケア、製造などの業種向けには、センサから取得したデータを企業内システムなどと連携するIoT(Internet of Things)分野にも参入する。4月1日付で就任した内田新社長(HULFT事業部長兼務)が、HULFT事業部長で常務取締役だった3月、本紙取材で「2020年までに世界シェアを倍増する」と、中期的な事業戦略を明らかにした。グループ会社のアプレッソのデータ連携ツール「DataSpider Servista」と合わせ、同社の方向性を探った。(取材・文/谷畑良胤)
大転換が結実したHULFT8
HULFTは現在、日本国内とアジアのMFT(ファイル転送ツール)ベンダーでシェアが1位(2015年11月現在、IDC調べ)である。しかし、グローバルに目を転じると、トップのIBM(シェア41%)に大差の8%で、4位に甘んじている。内田社長は、「サプライチェーンがグローバル化するなか、ファイル転送も多国間で使われるようになった」と、世界展開が待ったなしとみている。内田社長が事業部長として陣頭指揮を執り、14年12月に発売した「HULFT」(現在8.1)は、進化するデジタルテクノロジーへの対応やグローバル展開、事業全体の大転換を目指し、前バージョンを全面的につくり直した。
.jpg?v=1490861852)
新社長就任前の3月に
『週刊BCN』の取材に応じる
内田和弘社長 3年前に内田氏が事業部長に就任した当時、「HULFTは、いつの間にかHULFT間でしか使えないクローズドなツールになっていた」と、レガシーシステムの連携が主だったと振り返る。確かに、この領域では、確固たる地位を獲得していた。だが、内田社長は、HULFTのミッションの大転換を指示する。「さまざまなシステム、クラウド、データ、ビジネスをつなげる新しいデータ連携市場へ向かう」。システム間の「つなぎ」を拡大するため、「Harmonious Universal Link」というミッションに改め、「クローズド」でなく、「オープン」なプロトコルを受け入れた環境を提供する方針に転換。HULFTの“大工事”を敢行。完成版が「HULFT8」だ。
オープン化で守備範囲拡大
HULFT8が登場したことで、HULFTの守備範囲はメインフレームやUNIXなどから大幅に拡大した。内田社長は「(HULFT8のリリースで)EAI、ETL、BPM、PIM、EDIなどの仕組み、あらゆるOSのなかでHULFTを介してファイル転送ツールを使えるようになり、この領域のすべてを守備範囲にできた」と話す。今後は「クラウドやIoTなどをつなげる領域にまで手を伸ばし、企業内・企業間のあらゆるデータ連携をサポートする」と、3年前に傘下に収めたDataSpider Servistaを含めた新しいデータ連携を提供するベンダーへの進化を明言する。
このミッションにもとづき、順次、HULFTの機能強化を行った。例えば、異なるプラットフォーム間でデータ変換する「HULFT DataMagic」や、富士通や日立製作所が提供するストレージ間でデータ転送できる「HULFTーSAN」、ファイルの転送ルートを可視化し運用も一元化できるサーバー・アプリ監視の「SIGNAlert」などがそれだ。
内田社長は、こうした機能強化で得た価値をこう解説する。「郵便で例えると、書留や内容証明付のデータは確実に届ける必要がある。この場合、HULFTから投函すれば、相手先がどんなプロトコルでも勝手に処理し受け取りの確認まで行う」。異なるシステムを意識することなく使えるのだという。
HULFTはこれまで、8200社に導入し約17万7000本を販売した。全国銀行協会の全行の導入率は100%で、日本の売上トップ500の企業の80%に採用されている。すでに実績のある金融機関に加え、データの機密性を担保し、ファイル転送の数が多く転送速度に対する要件が厳しいヘルスケアや、製造などでグローバル展開する業種にフォーカスし、「今年度もツールを大きく進化させる」(内田社長)と、さらなる機能強化を示唆する。
IoT領域に参入、農業など視野
その一環としてIoT領域に参入した。今年4月には、「HULFT IoT」という先行検証版を出した。専用デバイスにHULFTのエージェントを搭載し、センサから出たデータを取り込むという実証実験を、工作機械メーカーなど一部の企業で開始した。「HULFTはシステム間のファイル転送・連携に使う。ここに『モノ』の情報の連携が加わる。農業や医療など、これまでと異なる顧客からの問い合わせが多い」(内田社長)と、裾野の広がりに期待する。
このHULFT IoTにDataSpider Servistaが連携することで、デバイスからセンサデータを吸い上げ集約し、必要なデータを業務システムと連携できる。リアルタイムにセンサデータを取り込み、業務システム側でそのデータを活用できるというわけだ。
同社は2年前、内田社長のもとでHULFTのパートナー制度を見直した。パートナーを導入、サポート、販売の三つに分類し拡販してきた。昨年度は見込み顧客に対するハイタッチセールスを強化し、パートナーに案件を渡す活動をしてきた。内田社長は、「今年度もハイタッチを強化する。ただ、パートナーに対し業種業態別のメリットをしっかり提供できていない」との反省があり、同社がフォーカスする領域に強みをもつITベンダーに対する施策を本格化する。