多くの会社員が経験する経費精算。手入力での作業や記入ミスなどにかかる手間を煩わしく感じる人も多いだろう。グローバルにビジネスを展開する総合商社の双日(佐藤洋二社長)は、2015年11月にクラウド経費精算システムの「Concur」を導入した。これにより、導入前の試算で、経費立替精算業務に年間約2万5000時間かかっていたが、約60%の削減を見込んでいるという。
【今回の事例内容】
<導入企業>双日ニチメンと日商岩井を母体として2003年に設立された総合商社。世界約50の国と地域で事業を展開している
<決断した人>柴田知見
主計部 主計課 課長
1993年入社。双日本社の決算業務を担当している
<課題>営業部における手入力(あるいは手書き)での経費精算書作成、記載の誤り、各種関係書類への押捺文化などによって、社員の経費精算業務にかかる時間と負担が大きかった
<対策>クラウド型経費精算システム「Concur」を導入。単体社員約2300人のうち約半数が利用
<効果>経費立替精算業務においてかかっていた年間約2万5000時間のうち、6割の削減を見込む
<今回の事例から学ぶポイント>革新的なツールの導入で、メリットを得る一方、新たな課題もみえた
経費精算負担軽減を図る
総合商社の双日は、経費精算業務の改善を望んでいた。双日本社は単体で約2300人の社員がいて、出張費や交際費を個人で立て替える社員が半数近くいる。経費の個人立て替えが多い営業部では、これまで精算書を手入力、一部は手書きで作成しなければならなかった。人手による作業のため、どうしても書類に誤りや漏れなどが発生し、その都度手戻りすることでさらに時間がかかっていた。そのうえ、社内には書類の押捺文化があることから、上長が出張で不在などの場合は、精算処理完了までに1週間近く要することもあった。また、経理部においても、社内ルールや税法にもとづいて、目でのチェック業務が膨大に発生しており、経費精算業務にかかる社員の時間と負担が大きかった。
こうした業務を効率化し負担を軽減するために、クラウド経費精算システム「Concur」の導入に至る。その立役者となった主計部主計課の柴田知見課長は、本社の導入に先立ち、2014年4月にConcurを採用した双日米国会社のシステム導入にも携わっていたという。導入の2か月後、日本の本社に戻った柴田課長は、本社でも導入すべきだと考え、翌7月から、たまたま営業に来ていたコンカーの社員とともに、Concurの導入に向け動き出した。
Concurの採用するにあたり、検証期間として半年をかけて、デモを何度も繰り返した。そして15年3月、正式に導入が決定。本格的に運用を開始する前には、運用の外部支援を検討し、コンカーから紹介を受けて、富士ソフトに協力を依頼した。富士ソフトは計8回の社内説明会やマニュアル作成を担当。「当社はこれまで自家製のシステムを使うことが多かった。(パブリッククラウドサービスという)みんなが使っているサービスをプロがわかりやすく説明してくれたため、インパクトが大きかった」(柴田課長)という。また、決算前には富士ソフトのスタッフが常駐して双日を支援した。
新たに浮上した課題も
15年11月、本社のおよそ半数の社員の間でConcurの本格運用を開始した。導入してからは、承認者である上長が外出先でもスマートフォンで承認ができる、書類への押捺が不要になる、精算作業のミスが減るといった変化があった。利用している社員からは、「従来、精算書と支払伝票の二重入力が必要だったが、Concurの導入によって支払伝票が不要になり、作業が楽になった」との声がとくに多かったそうだ。
一方で、「領収書に不備があったり、紛失したときはどうするか。承認者がいないときの権限移譲はどうするかなどの問題が新たに出てきた。また、システムだと融通が利かないため、ケースバイケースでの対応ができず、今までファジーに運用してきたところが浮き彫りになった」(柴田課長)。こうした課題を受け、現在、社内ルールの明確化に取り組んでいるという。
本番稼働してから3か月が経過した現在、ようやく社員がシステムに慣れ始めた段階で、システムの恩恵もあれば、新たに浮上した課題もある。それでも、「経費の立替精算業務にかかっていた年間約2万5000時間のうち、約60%の削減が見込める。これまで経費精算に使っていた時間が減ることで、その時間を他の業務にまわすことができる」と柴田課長は導入の手ごたえを感じている。さらに使いやすいシステムにするため、社内の意見をくみ上げ、運用体制を整えているところだ。
また、柴田課長は「運用ルールとレポートの作成やメンテナンスには、深い知識が必要で、業務負担を軽くするうえではここに時間をかけたくない。富士ソフトでコンサルティングや業務を受託してくれるとありがたい」と富士ソフトへの期待も語った。
電子帳簿保存法の規制緩和がカギ
柴田課長が重視しているのが「電子帳簿保存法」への対応だ。15年の電子帳簿保存法の規制緩和によって、領収書の金額にかかわらずスキャナで電子化しての保存が可能となった。その一方で、新たに追加された「適正事務処理要件」により、最低でも年に一回、経理部以外の者が、紙と電子化した領収書を確認する必要が出てきた。「『年に最低一回』だと、年に一回なのか、半年に一回なのか月に一回なのか。また、監査が終わるまで紙の領収書を保管しなければならないのか。紙の領収書を提出しなければならないのであれば、営業部の負担は変わらないのではないか」など、新たな課題が見え隠れしている。「今後、どこまで規制が緩和されて、どこまでConcurでできるようになるのか、期待している」としつつ、この電子帳簿保存法への対応後には、国内の子会社でもConcur導入を進めていく予定だ。(前田幸慧)