グローバルに展開するデータセンター(DC)専業ベンダーが勢力を伸ばしている。大手集約によって規模のメリットを生かすだけでなく、企業向けインターネットのハブ(拠点)の役割を担う取り組みを加速。同時に大手通信キャリアやクラウド/SaaSベンダーなどと巧みに棲み分けを図りながら独自の生存空間を築きつつある。ドメスティックな国内ベンダーとどういった点が異なるのかを探った。(安藤章司)

Coltテクノロジーサービス
星野真人
執行役員 DC専業ベンダーは、通信キャリアとパブリッククラウドのようなサービスベンダーの中間部分に存在するベンダーで、特定の通信キャリアに縛られることのない中立的なDC設備の運営を特徴としている。代表的なベンダーはエクイニクスやColtグループで、いずれも米国系のベンダーだが、彼らが目指すところは、とりわけ企業向け(B2B)領域における情報流通の中枢を担うポジションだ。
このポジションを獲得するためにDCの設備だけでなく、独自の通信ネットワーク網の運営にも力を入れており、自社が運営するDCを軸として自前のネットワーク網を世界中に張り巡らせている。大手通信キャリアも同様の取り組みをしているが、DC専業は「特定のキャリアに縛られず、コストパフォーマンスがよく、顧客に最も適した通信回線を自由に選べる」(Coltテクノロジーサービスの星野真人・執行役員アジアプロダクトマネジメント本部長)ところが、ユーザー企業から支持されていると話す。
「DCがデータを保管するだけの“貸金庫”だった時代はとうの昔に終わっている」と話すのは、エクイニクス・ジャパンの古田敬社長だ。エクイニクスの基本戦略はインターネット上の“ハブ(拠点)”になること。昨年末から今年にかけて日本の旧ビットアイル(現ビットアイル・エクイニクス)や欧州の大手DC事業者のテレシティをグループに迎え入れたことで、世界33都市105拠点から、一気に世界40都市145拠点へと拡大させている。
ポイントになるのは、インターネットのトラフィック(通信量)が集中する大都市部に置く複数のDC設備と、都市ネットワーク(メトロネットワーク)を自前でもつことによる都市単位での拠点化。なおかつ主要メトロネット間も、自前のネットワークで結ぶことでハブDCを形成・補強していく戦略だ。
アジア太平洋地域において、Coltテクノロジーサービスは、東京、横浜、大阪でメトロエリア(大都市部)に特化したメトロネットワーク網「etherXEN」を構築してきたが、この1月から新しくシンガポールでも同様のメトロネットサービスをスタート。シンガポールのオフィス・ビジネス地域のカバー率は約60%だが、年内には80%まで高めて「利便性を高めていく」(Coltテクノロジーサービスの星野執行役員)方針を示す。アジア太平洋地域でのメトロネット対応はまだこの4か所だが、Coltグループ全体でみるとすでに計48都市に展開中で、今後も拡充していく予定だ。
実は、こうしたDC専業ベンダーのインフラの上に、有力パブリッククラウドサービス(IaaS/PaaS)や、SIerやISV(ソフト開発ベンダー)などのSaaS系アプリケーションサービスを乗せたり、ベンダー同士で相互に連携したりする動きが加速している。大手通信キャリアとクラウド/SaaS系ベンダーの中間に位置し、なおかつインターネット上のハブを押さえる戦略で独自のポジションを獲得しようとしている点に特徴がある。国内DC専業ベンダーの今後のビジネス設計にも大いに参考になる取り組みといえよう。