IT業界でも老舗企業の一つに数えられる米CAテクノロジーズ(CA)。メインフレーム向けのソフトウェアを長年手がけてきたが、近年はアジャイル開発やDevOpsなど、新たなソフトウェアの機動的な展開を支援するための製品に注力している。革新的なサービスは、ベンチャー企業からもたらされるもので、硬直化した大企業がそれを生み出すのは難しいという見方もあるが、CAはソフトウェアの力によって、大企業のビジネスに俊敏性をもたらそうとしている。(取材・文/日高彰)
数年スパンの更新では遅すぎる
11月に米ラスベガスで開催されたCAの年次イベント「CA World '15」でマイク・グレゴアCEO(写真1)は、現代の企業にはアプリケーションを高速に開発・投入し、継続的に品質を高めていくことが求められると強調した(『週刊BCN』1607号・3面参照)。製造、流通、金融、運輸などあらゆる産業で、ITを使いこなすことが競争力の源泉となる時代になっているからだ。オットー・バークスCTO(写真2)も同イベントの講演で、テクノロジーへの投資は「利益を絞り出すのではなく、トップラインの収入を成長させるものである」と話し、既存ビジネスの収益性を改善するという発想にはとどまらず、IT活用によってビジネスの規模そのものを拡大できるとの考え方を示している。
しかし、グレゴアCEOらが述べている「ITの活用」が、単なるコスト削減や業務効率化を超える効果を意味している以上、受発注や生産管理といった基幹系システムの改修や、基幹系とモバイルアプリケーションやIoTデバイスとのつなぎ込みといった、思い切ったシステム連携が求められる。更新サイクルが数年スパンの基幹系システムには、市場の変化に応じて、新しい機能を次々追加していく考え方自体が合わないという問題がある。
DevOpsに並ぶ柱がAPIとセキュリティ
メインフレーム分野の老舗だったCAが、近年「DevOps」「アジャイル開発」にフォーカスしているのは、同社のユーザーである大企業に対して、基幹系システムが抱える前述の問題を乗り越え、ベンチャー企業のように機動的なアプリケーションの展開が可能な環境を提供するためだ。
しかし、すでに莫大なIT資産を抱えている大企業が、本当に「アジャイル(俊敏)」になれるのか。CAではその一つの解として、APIを介したソフトウェアの連携に重きを置いている。APIというと、最近ではウェブサービス同士を連携させる仕組みを指すことが多くなったが、API管理製品担当シニアバイスプレジデントのスコット・モリソン氏(写真3)は、APIを「企業がもつデータベースを“アンロック”するカギ」と位置づける。
企業の基幹系システムには、これまでの事業活動によるさまざまなデータが蓄えられているが、適切なAPIを整備すれば、基幹系システムそのものに大きな改修を加えなくとも、現代的なアプリケーションからそれらのデータにアクセスできるようになるというわけだ。CAのAPI管理製品を導入した企業では、従来、モバイルアプリケーションなどからはアクセスできなかった経営情報も活用できるようになったことで、新たな機能追加が可能になるだけでなく、エンジニアのモチベーションアップといった効果も得られたという。
一方で、APIによる連携が広がっていけば、その分攻撃にさらされる部分も増えるため、CAではセキュリティ製品の拡充も行っており、セキュリティをDevOpsやAPIに並ぶ注力分野の一つに数えている。ただしCAは、ファイアウォールといったサイバー攻撃を防御する製品ではなく、権限を保護することで不正なユーザーがシステムに触れるのを防ぐ、ID管理製品にフォーカスしている。メインフレームとオープン系システムの両方をカバーできる統合認証基盤を有しているのがCAの強みで、さらに、rootユーザーに対しても権限に制限を加えられる強力な特権ID保護ソリューションを提案している。セキュリティ製品担当バイスプレジデントのミシェル・ウォー氏(写真4)は「自動車のソフトウェアをネットワーク経由でアップデートするといった機会も今後増えるため、IoTデバイスでもIDの管理は重要になる」と指摘し、特権ID管理は今後セキュリティ業界で大きく需要が伸びる分野になるとの見方を示している。
アジャイル支援がの新ビジネスに
では、CAが提唱するような、あらゆる企業がアジャイルにアプリケーションを開発・投入する時代が到来した場合、これまでユーザー企業の情報システムの開発・運用に携わってきたSIerの役割が希薄になるおそれはないのだろうか。
アジア太平洋地域と日本市場でのパートナーシップおよびアライアンスを担当するシニアバイスプレジデントのダレン・リード氏(写真5)にその点をたずねると、「パートナーはユーザーのアジャイル化を支援するという、新たなビジネス機会を得ることができる」との答えが返ってきた。ユーザー企業自身によるIT活用は今後さらに活発化するが、ユーザーはビジネスにどう役立つかという観点で、ITに関心をもっているのであり、技術そのものを知りたいのではない。ユーザーがアプリケーションの開発・運用に集中できるよう、技術の専門家の立場から支援するSIerの地位が揺らぐことはないというのがリード氏の主張だ。
アプリケーションによるビジネス変革を旗印に掲げるCA自身も、その戦略を固められたのはまだ最近のことだ。バークスCTOは今年就任したばかりだが、前職のケーブルテレビ局HBOではネット配信サービスの開発、前々職のマイクロソフトではXbox開発のコアメンバーを務めた人物で、CAの経営陣としては異色の経歴。グレゴアCEOは、CAにこのような人材を呼び寄せることで、アプリケーションの力で老舗企業が生まれ変われることを、身をもって表そうとしているようだ。