中国・上海市に本拠を置く易保網絡技術(eBaoTech、莫元武総裁)は、保険業向けソフトウェアを専業で手がけているISVだ。同社は2000年に設立して以来、グローバル約30の国・地域に自社製品の提供範囲を拡大。売上高はここ数年20~30%ペースで増加しており、海外売上比率は70%程度に達している。「商品の品質と革新性は世界トップレベル」と自信をみせる莫総裁は、今後は保険業のクラウド化を推進する姿勢を打ち出している。(取材・文/上海支局 真鍋武)
売りは“イノベーション”
──保険業に特化したソフトウェアを提供していますが、御社の強みについて教えてください。 
eBaoTech
莫元武総裁
広州の中山大学で物理学の学士と修士、米ウィスコンシン大学で物理学の博士を取得。その後は、IBMニューヨークT.J.Watson研究センターの主任研究員を4年、マッキンゼー中国の経営コンサルタントを5年間務め、2000年に易保網絡技術を設立した。 莫 ずばり、“イノベーション”です。当社は2000年に設立し、当初からインターネットを活用した保険業向けのサービスを検討していました。そう、今でいう“互聯網+保険”です。
ただ、その時は、保険業のインターネット化は時期的に早すぎたこともあり、成功には至りませんでしたので、保険業のバックエンド側のコア業務を支えるソフトウェアに着手しました。01年に世界で初めてJavaベースの保険業向けシステムを開発し、今では約30の国・地域に商品を提供しています。日本市場にも進出していて、フコク生命、ソニー生命、朝日生命など、5社程度のユーザーを獲得しています。
そして、14年からは、次のステップに進んでいます。保険業のクラウド化です。これまでは、契約管理や審査など、バックエンドの保険業システムに力を注いできましたが、クラウドを活用して、今では営業やアフターサービスなど、フロントエンドの業務も対象領域としています。保険業のクラウド化について、バックエンドからフロントエンドにまたぐ先進的なグローバルオープンエコシステムを提供することが、当社の目指すところです。
──そのための戦略商材が、今年提供を開始した「eBaoCloud」でしょうか。 莫 そうです。これは、アリババグループの「AliCloud」上で提供するSaaS型のクラウドサービスです。eBaoCloudは、複数のコンポーネントを組み合わせて利用するモデルとなっていて、ユーザーの保険業者は低コスト・短時間で保険商品を開発したり、携程(Ctrip)などの異なるチャネル上で商品を提供したりすることができます。当社が従来、提供してきた伝統的な製品と比べて細かな調整ができるほか、AliCloudのビッグデータ分析機能も備えています。
今後は、このプラットフォームを使って、あらゆる保険会社が、あらゆる保険商品をあらゆるチャネル上で提供できるようにしたいですね。また、これによって、今後の保険業の営業やアフターサービスは、すべてインターネットを基軸とした活動に変わるでしょう。かつて、保険業の戦略策定や意思決定に携わるのは、限られたコアメンバーだけでした。しかし、インターネット化が進めば、消費者の購買意欲をビッグデータ分析して、会社内部の意思決定に生かすことができます。こうした外部からの刺激が大きな影響力をもつ時代になってきています。
クラウド化の意欲は中国がトップ
──保険業のクラウド化は、国・地域で進展に違いがみられますか。 莫 当社はグローバルに約150社のユーザーを抱えていますが、すでにクラウドを利用している企業も出てきています。また、クラウド化に対する積極性についていえば、中国はすごく熱意をもっていると感じています。世界でもトップレベルですね。一方、先進国の場合は、逆に保守的だと感じることが多いです。日本も比較的に保守的だといえます。
理由を簡単に説明しますと、中国は保険業自体が新しいので、コアシステムも新しいという事情があります。古いシステムをリプレースする需要がありませんし、経験・ノウハウの蓄積もありませんので、新しいものが出てきたときには、軽く試してみたいという気持ちになります。だからこそ、同じ例でみると、伝統的なリテール業がそれほど発展していないために、アリババのようなEC企業が急成長して市場を勝ち取れるというわけです。
一方、海外では保険業自体が長い歴史をもっています。一部では、20年前のコアシステムを使っているところもあるほどです。クラウド化を進めるためには、これを変える必要がありますが、簡単なことではありません。
──こうした状況下、グローバルで成功を収めるためには、各国・地域の事情に精通したパートナーの存在が必要です。どんな企業と組んでいるのですか。 莫 大事にしていることは、成功しているIT企業を選ぶことです。例えば、日本ではNTTデータと組んでいますが、彼らはすぐれたサービスとブランド力をもっていて、ユーザーに対する責任感も強い。こうした成功企業で、将来のITの発展傾向について、同じビジョンを共有できる企業とは、いいパートナーシップを構築できるでしょう。
一方、パートナー側は、製品がすぐれていて、われわれと組めば市場を開拓できるとみて当社を選んでいます。
──御社の海外売上比率は70%程度と、中国のIT企業のなかでもかなり高いといえます。海外で成功するための秘訣は何でしょうか。 莫 異なる業界には、異なる事情がありますが、いかに“イノベーション”を極めるかが勝負の分かれどころでしょう。つまり、すぐれた商品であれば勝っていくでしょう。
そのための研究開発費はもちろん必要ですが、これだけでも決して十分ではありません。会社の文化として、イノベーションの必要性を真摯に伝える姿勢が大事です。また、経営者には強固なリーダーシップが求められます。
当社の保険業向け製品は、品質と革新性に関しては、世界トップレベルだと自負しています。保険業のクラウド化はまだ始まったばかりで将来の発展余地は非常に大きい。今後2~3年間で、ユーザー数を1000社まで拡大することが目標です。