NFV(ネットワーク機能の仮想化)に大きなビジネスチャンスを見出そうとする国内ベンダーが相次いでいる。ハードウェアでもない、業務アプリケーションでもない、通信に特化したミドルウェアの領域だけに参入障壁は高く、「ハードとソフトのすり合わせの技術」が求められる分野。それだけに同領域で腕に覚えがある国内ベンダーが相次いでNFVに参入しているのだ。海外の先行する大手ネットワーク機器ベンダーも、NFVに力を入れてきており、大手がNFV対応を本格的に進めてくるまでに、どれだけ国内ベンダーがシェアを獲れるかが勝負となる。(安藤章司)
ハードとソフトをすり合わせ
NFVは、ファイアウォールやスイッチ、ロードバランサーなど、これまで専用のネットワーク機器で制御してきた部分を、汎用サーバーの上で稼働するソフトウェアに置き換えるものだ。ネットワークをソフトウェアで定義していくソフトウェアデファインド・ネットワーク(SDN)の流れのなかで、個々のネットワーク機器を仮想化して、運用面での柔軟性や拡張性を高め、コスト削減を実現する。
サーバーやストレージは、いち早く仮想化したが、ネットワーク機器は今でも専用アプライアンス製品が主流を占めている。この専用機器の機能を汎用的な仮想サーバー(VM)上のソフトウェアでの処理に置き換えるのがNFVの基本的な考え方。ネットワーク機器ベンダーからすれば、ソフトウェア化によって機器が売れなくなる可能性が出てくるため、既存のビジネスを毀損しないよう、NFV化を慎重に進めている面が否めない。ここに目をつけたのが国内ベンダーである。

アルチザネットワークスの床次隆志社長(右)と門田隆之・ネットワークプロダクト開発部長 携帯電話ネットワークの負荷テスト機器で国内トップのアルチザネットワークスは、今年秋からNFV商材の本格的な事業拡大に乗り出す。同社の床次隆志社長は、「NFVは当社にとって千載一遇のチャンス」と位置づけ、早くから研究開発に取り組んできた。汎用の仮想サーバー上でネットワーク機器機能を駆動させることは可能だが、その場合、通信特有のスイッチやパケット処理、暗号化/復号化などの部分が、「ボトルネックになりやすい傾向にある」(門田隆之・ネットワークプロダクト開発部部長)ことから、ハードウェアで一部の機能を代替する仕組みを採用しているのが特徴だ。
具体的には、NFVアシスト機能を実装したネットワークボードと、NFVのソフトウェア部分をセットにした製品「PowerNFV」を開発(図参照)している。「ハードとソフトのすり合わせ方式」(門田部長)によって、長年ネットワーク機器を開発してきたアルチザネットワークスの強みを生かすとともに、処理速度の速さで他社を圧倒する差異化策を打ち出している。スイッチなど通信特有の負荷を専用ネットワークボードのハードウェアで処理し、ロードバランサーやファイアウォールなどはソフトウェアで処理する。「PowerNFV」はこの秋から本格的な量産体制に入り、3年後にはNFV関連ビジネスを同社の全売上高の3割ほどを占めるまでに育てたいという考えを示す。
世界同時にビジネスを進める

ミドクラジャパン
松尾茜ディレクター ソフトウェア開発のミドクラジャパンもNFVを積極的に開発している。同社の特徴は世界中の優秀な開発者を集めて、最先端のNFVソフトウェア製品を開発している点にある。直近では本社がある日本はもとより、米国西海岸やイスラエル、スペインなどに開発や営業・サポート拠点を展開しており、「世界同時進行でビジネスを進めている」(松尾茜ディレクター)。
この背景として、ネットワークに国境はなく、世界でトップクラスのNFV技術者を集めて、世界規模でシェアを獲らなければ勝ち残れないことや、現時点でNFVを本格採用するのは先進的なユーザーが多いため、販売エリアを広げないとまとまった注文がとれないという事情が挙げられる。実際、同社のビジネスは、北米市場のビジネスの伸びがいちばん大きく、次いで日本と欧州が続く。国内では伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)など大手SIerもミドクラのNFVの販売を始めている。
国内で最も早い時期にミドクラのNFVを採用したのは、データセンター(DC)サービス大手のKVHだ。クラウドサービスの運用にあたって、サーバーやストレージは仮想化によって柔軟に増減できるのに対し、仮想化できていないネットワーク部分が「クラウドサービスの柔軟性の足かせになっていた」(KVHの近藤孝至・プロダクト・マネジメント部シニアエキスパート)。このためネットワーク機器部分をミドクラのNFVによって完全に仮想化し、ボトルネックを解消したというわけだ。
ネットワーク機器を仮想化することで、限られたDCや機材用ラックのスペースを節約する効果も大きく、ユーザーはNFVによってクラウドの柔軟性を一段と高められるとともに、ネットワーク機器(ハードウェア)の購入費用を抑え、DCのスペース節約によるコスト削減効果も見込める。NFVが浸透するにつれて従来のネットワーク機器の販売に影響が出るのは避けられない。ネットワーク機器メーカー大手のF5ネットワークスは、自らを機器ベンダーではなく「ソフトウェア・デファインド・アプリケーションサービスベンダー」(同社日本法人の古舘正清社長)と位置づけ、ソフト化対応を急ぐ。
世界大手のネットワーク機器ベンダーがNFVをはじめとする仮想化やソフトウェア定義へと完全に移行する前に、国内ベンダーがどれだけ世界で存在感を示せるかが、勝負の分かれ目になるといえそうだ。