人事管理・給与計算のパッケージソフトベンダーや販社などを中心に、ITベンダー28社が社会保険システム連絡協議会を設立した。社会保険行政のICT化推進を目的とする組織で、IT産業界を代表して、社会保険行政を所管する総務省、厚生労働省と情報・意見交換やさまざまな協議を行うことになる。税務システム分野では、会計事務所向けシステムのベンダーなどが中心となって税務システム連絡協議会を設立し、20年近く前に国とのパイプを構築しているが、社会保険システムの分野でも、ようやく同様のチャネルが開かれたかたちだ。ベンダー側にとっては悲願ともいえるが、マイナンバー制度の運用開始も来年1月に控え、今後の法・制度改正に抜かりのない製品対応をしなければならないという重い社会的責任も課せられる。(本多和幸)
事務局はCSAJだが非会員も歓迎

代表幹事会社である
PCAの水谷社長 社会保険システム協議会の設立にあたっては、ピー・シー・エー(PCA)、弥生、オービックビジネスコンサルタント(OBC)、ラクラス、ワークスアプリケーションズが発起人となり、幹事会社もこの5社が務める。代表幹事会社は、PCAが担当する。
会員の対象となるのは、社会保険・労働保険関連手続きの電子申請が可能なソフトの開発、販売、サポートに関わる事業を行っているベンダーだ。事務局はコンピュータソフトウェア協会(CSAJ)が務めるが、CSAJの会員以外も入会できる。代表幹事会社社長として協議会の運営を主導することになるPCAの水谷学社長は、「公平性を担保するということが大前提。現在、28社が会員になっているが、なかにはCSAJ会員以外のメンバーもいる。CSAJの会員であるかどうかにかかわらず、1社でも多く社会保険の手続きに関わるベンダーをカバーするのが重要なテーマだ。幹事も1年交代で、もちろん幹事会社だけが先に情報を得られるようなことは絶対にない。せっかく開けた門戸が閉ざされることのないように、慎重に、細心の注意を払いつつ、全力を傾けて運営していく」と説明する。
また、全国社会保険労務士会連合会が、協力団体として協議会に参画することも大きなポイントだという。「法的、実務的な観点から社会保険手続きの専門家に意見を聞く必要も当然ある。税の世界でいえば、税理士に相当するのが社会保険労務士で、その業界団体と連携せずに、協議会の活動がうまく回るとは思えない」と、水谷社長は話す。
社会保険手続きなどの電子申請は、2008年から、日本政府の情報ポータルサイトである「e-Gov」で受付を開始した。その後、国は段階的に使い勝手の向上に取り組み、昨年10月には、e-Gov電子申請システムのAPIを公開し、今年4月にサービスインした。これにより、人事給与システムをはじめとする申請側の外部システムとのより包括的な連携が可能になった。ただし、ソフトベンダーがこのAPIを活用した製品を世に出すためには、e-Govに用意された検証環境での試験を経て、総務省の合格判定を受ける必要がある。6月25日時点で、総務省にソフトウェア開発の申し込みを行っているベンダーは24社、すでに試験に合格したベンダーは4社という状況だ。
国も協議会設立を歓迎
協議会は6月26日に設立趣旨説明会を開き、幹事会社各社の代表が、「e-Gov外部連携API利用ソフトをリリースするベンダーを大幅に増やす」「e-Govの利用率を現状の4%から10%程度まで押し上げる」など、今後の目標に言及した。さらに、電子申請のユーザビリティを継続的に向上させていくためには、国とIT産業界が双方向でコミュニケーションできるチャネルが必要であり、協議会がその役割を果たしていくことも確認した。説明会には、総務省行政管理局の千葉博・企画官、厚生労働省情報政策担当参事官室の田沢修二・室長補佐も出席し、社会保険手続きに関するシステムの分野で、業界を幅広くカバーする組織ができたことを歓迎。まずは協議会側の意見を聞き、効果があるものを整理して、優先順位をつけて施策に反映していく意向を示した。また、全国社会保険労務士会連合会の立岩優征・電子化委員会委員は、「e-Govの使い勝手を上げるためにはどうしたらいいのか、ユーザーやソフトベンダーこそ知恵をもっている」と、電子申請の促進に向けた協議会の役割の重要性を強調した。
当面の活動としては、社会保険の手続きに関する帳票類の仕様変更などについて、国と直接情報を共有することで、会員の製品やサービスにスピーディーに反映させ、しっかりと事前検証・調整をしたうえでユーザーに提供できるような基盤づくりをめざす。水谷社長は、その狙いと具体的な取り組み方針を次のように説明する。
「従来、社会保険の手続きに関する帳票類に仕様変更があった場合、その情報は官報で一方的に知らされるだけで、人事給与のパッケージベンダーなどは、各社ごと個別に官報を毎日チェックし、関係機関に手引き書などをもらいに行ったうえで製品に変更点を反映させるというフローで対応していた。協議会の設立により、この業務が簡素化され、タイムリーかつ網羅的な情報収集ができるようになる。e-Gov外部連携APIを活用したソフトが増えて電子申請の流れがどんどん加速すれば、動作確認・検証も当然e-Govとの連携が必要になるため、早いタイミングで情報を入手することがより重要になる。情報共有の方法としては、まず、メーリングリストで情報を流すことになるだろうが、将来的にはデータベースを構築して情報を蓄積していくこともあり得る。幹事会社の持ち回りなどではなく、CSAJが恒常的に事務局を務めるので、そうしたインフラ整備も十分に検討することが可能だ」。
協議会は、広義では一種の公器として機能することになる。ベンダー側にとって有益な仕組みである一方、会員企業はより大きな社会的責任を負うことになることも実際のところだ。ベンダー側には、この仕組みをフルに活用して、より法・制度改正にスピーディーかつ確実に対応したクオリティの高い製品を、継続して提供し続けることが求められる。