中国には、約2万3000社の日系企業が存在する。このうちの数百社はITベンダーで、現状、彼らのほとんどが、現地の日系企業を主要な顧客としている。では、日系ITベンダーは、顧客を十分に支援できているのだろうか。日系大手の統括会社に所属する3人の現地IT担当者に、匿名で本音の意見をうかがった。(取材・文/上海支局 真鍋武)
A氏
業種
製造業
役職
情報システム部 部長
中国駐在歴
約2か月
スピード感はあるが、見積りは高額
某大手重機メーカーに勤めるA氏は、今年5月に中国に赴任した。ミッションは、中国にあるグループ会社、約30拠点の情報システムの統括だ。赴任2か月目の現在は、各グループ会社への挨拶回りも一段落して、あらかた現状把握を終えたところ。「当社グループの場合、かなり前から中国で事業をしていることもあって、情報システムの成熟度も日本と同等レベル」とA氏は語る。
中国語は満足に話せないので、情報システムに関する困りごとは、ひとまず現地の日系ITベンダーに相談している。A氏は、「驚くのが、対応の速さ。電話で相談したら、『すぐにうかがいます』と言って、その日のうちに提案に駆けつけてくれる。その後の見積もり金額などの要求も、できるかできないかを即座に判断してくれる。日本のように、上司と逐一相談して、提案内容や見積金額をチェックするという習慣がないようだ」と満足げだ。
一方で、不満もある。「とにかく見積金額が高い」とA氏。同じ案件でも、人件費が安い中国のローカルITベンダーと比べれば、日系ITベンダーの見積金額は総じて高い。さらに、日本製品を導入する場合は、関税の分だけ価格が上乗せされるケースもある。そこでA氏は、「今後は、常に3社程度を競わせて、『一番安いところを採用します』という方針を伝えて、どこまで値下げできるか試そうと思っている。ベンダーの日本側の担当者は知り合いが多いので、日本からも値下げ圧力をかけてもらえるよう交渉する」と強気の姿勢を示している。B氏
業種
印刷業
役職
情報システム部 主任
中国駐在歴
2年と少し
下請けへの丸投げに嫌気
中国に赴任して2年が経過した某大手印刷業のB氏。グループ7社の情報システムを統括しているが、「最近は、各社のシステム環境が整ってきた。今後は、各拠点にある独立したシステムのデータ連携を進めて、中国のグループ企業全体の情報を一元管理していきたい」と意気込んでいる。
B氏は、現地でのITベンダーの選定基準について「日系ITベンダーだからといって、優先的に採用するようなことはしない」と説明する。その理由は、見積もり金額が高額なことはもちろんだが、品質にも納得できないことがあるからだ。「例えば、システム開発の案件を日系ITベンダーに発注しても、実際の開発は下請け業者に丸投げされているケースがある。大手ITベンダーに依頼したのに、でき上がったシステムの品質が低くて愕然したこともあった。高い金額を払ってその程度なら、最初から下請け業者に依頼したほうがいい。中国の情報システム部門のIT予算は限れられている」とB氏は指摘する。ITベンダーは、下請けの使い方を見直す必要がありそうだ。
ただし、評価できるポイントもある。「担当者が替わった際にも容易に引き継ぎができるように、過去のシステム開発の履歴などについて、ドキュメントを用意してくれたり、中長期的な観点からシステムに関するアドバイスをくれたりするのは、日系ベンダーならではのきめ細かな対応」とB氏。顧客に配慮したおもてなしの精神は、中国でも好評のようだ。C氏
業種
製造業
役職
情報システム部 部長
中国駐在歴
2年余り
セキュリティ案件は日系に
グループ約15社の情報システムを統括している某大手メーカーのC氏は、今年で駐在3年目を迎えた。「現在、当社グループでは、日本を含めたグローバル全域で、情報システム基盤を統一しようと動いている。とくに中国では、ネットワーク環境の見直しや、セキュリティ対策の強化を進めている」という。
C氏が信頼するパートナーは、日系ITベンダーだ。「中国のローカル企業は、いつまで存続するかわからないし、セキュリティ関連の案件を委託するのはリスキー」と、日本でも取引があって、安心できる日系ベンダーを優先する。すでに、某大手SIerに依頼して、グループ各社のセキュリティ診断は終えた。今後は、課題の整理を進めて、具体的なセキュリティ体制を整備していく。
C氏の所属企業だけでなく、日系企業の中国統括会社では、最近、本社が要求するコンプライアンス体制を確保するために、セキュリティ対策に力を注いでいる。各事業法人が、これまで独自にIT環境を整備してきたために、統括会社が現在の状況を把握しきれていないケースが多い。とくにIT担当者がいない現地法人の場合、セキュリティ対策がずさんになっている可能性が高い。
C氏によると、「セキュリティ対策に関しては、資金面を含めて、日本本社からの支援を得やすい」のだとか。日系ITベンダーにとっては、セキュリティ対策ソリューションの提案が、新たなビジネスの芽になる可能性が大きいといえよう。