フルスタック化こそ成長のカギ

椎木茂
副社長 日本オラクル(杉原博茂社長兼CEO)は、パートナーアライアンスの新しいビジョンを発表した。キーワードは、「フルスタック化」と「全国津々浦々に至る営業体制」の二つ。杉原体制発足からまもなく1年が経つが、さらなる成長に向けた拡販体制がみえてきた。
まず、フルスタック化とは、パートナーの取り扱い商材の幅をフルラインアップに近いレベルまで広げてもらうことを指す。パートナー戦略の責任者である椎木茂・副社長執行役員アライアンス事業統括は、「既存のパートナーは、非常にざっくり区分すると、データベースを中心にしたビジネスを展開しているパートナーと、アプリケーションを中心に扱っているパートナーの二つに分かれる。しかし、特定の商材に特化したビジネスでは、安定した成長が難しくなってきている。一方で、フルスタック化の成功事例として、データベース中心のビジネスから垂直統合製品のエンジニアド・システムまで取り扱いを広げて成長したパートナーや、ERP中心のビジネスからトータルソリューション化を進めて安定的な成長を実現したパートナーがどんどん出てきている」と説明する。さらに、顧客のビジネスのグローバル化が進んでおり、「グローバルで競争力があるオラクル製品をフルスタックで扱うことは、世界展開の助けにもなる」(椎木副社長)という。
杉原社長は就任当初から、日本オラクルのさらなる成長には「パートナーエコシステムの強化が必須」と主張してきた。さらに、本紙の取材に対して、「日本の市場ではベンダー・ロックインが無条件に批判される傾向があるが、ユーザーにとって、自分たちの事業環境の変化に合わせて常に新しいソリューションを提案してくれるコンシェルジュのようなベンダーには、ユーザー自らが囲い込みを求めるようになる。これは『よい囲い込み』であり、オラクルはそのための商材を提供していく」と話していた。パートナーとともに、この「よい囲い込み」を推し進めていく方針を鮮明にしたといえそうだ。
5支社の「顔」をわかりやすく
もう一点、日本オラクルがあらためて打ち出したのが、地方重視の戦略だ。地方の拠点としては5支社、3支店を置いているが、とくに北海道、東北、中部、西日本、九州の5支社については、支社長をエリアの責任者として前面に押し出し、全国とのパートナーの支援機能を強化するという。椎木副社長は、「地方のIT投資はまだまだ不十分で、ここに成長の余地がある。5支社の責任者を一人ひとりわかりやすくパートナーの皆さんに開示して『顔』が見えるようにし、全国津々浦々に至るまでパートナー、ユーザーのサポートをする体制をつくる」と力を込める。また、オラクル自身が扱うデジタルマーケティング・ソリューション「Marketing Cloud」なども活用し、パートナーごとに個別のマーケティング支援も行っていくという。
競合するベンダーでは、日本IBMのマーティン・イェッター前社長が地方重視の戦略を打ち出したが、IBMがレノボに売却したx86サーバーの代わりに何を売るのかという問題に対する回答をいまだに見つけていないパートナーも存在するし、販路をVAD経由の販売のみに絞ったことに対する困惑の声が収まっていないのが実情だ。日本オラクルの新たなパートナー戦略が、地方における市場形成にどのような影響を与えるのかも要注目だ。(本多和幸)