日系IT企業のアジアビジネスの主要な投資先は、中国からASEANにシフトした。とはいえ、約13億の人口を抱える巨大マーケットであることと、物理的な距離の近さを考えれば、軽視できない市場であることに変わりはない。改めて、中国マーケットの今を示す基本データを、「ヒト」「「カネ」「モノ」の観点から把握してみよう。(真鍋武/木村剛士)
Chapter 1
ヒト(人件費)
ソフト事業者の平均年収は約164万円
人件費が高騰している中国。実際にどの程度、上昇しているかを示しているのが右図だ。中国の大手人事コンサルティング企業である人力資源調研中心のレポートをもとに作成した。中国一級都市内の企業に勤めるスタッフの平均年収を、主要な6業種に抜粋して示した。
毎年、全業種ともに前年を上回っているが、不動産事業者と金融事業者の伸び率が高い。とくに2012年から一気に上昇している。一方、製造業とサービス業の平均年収は低く、伸び率もさほど変わっていない。
インターネット事業者およびコンピュータソフトウェア事業者は、その中間。直近14年のインターネット事業者の平均年収は8万7068元(約165万5000円)で、コンピュータソフトウェア事業者は8万6337元(約164万円)。
日本の水準に比べて、中国のIT人材の人件費は依然安価であるといえるが、継続して上がっていくことは間違いなさそうだ。中国にソフト開発業務をアウトソーシングする日系企業は、安価な労働力をあてにしていたが、そのメリットは着実に薄れていく。中長期的にみれば、中国のIT人材の活用法を見直す必要がありそうだ。
Chapter 2
カネ(市場規模)
前年20%超えの成長率
中国の情報サービス産業の規模を示した中国政府の公式データが右図。日本の経済産業省に相当する中国政府の「工業和信息化部」(工信部)が調べたものだ。このレポートによると、14年の情報サービス産業の規模は、3兆7000億元(70兆3000億円)。前年比成長率は11年の32.4%をピークに鈍化傾向にあるが、それでも図で示した年すべてで前年比20%超えを記録しており、依然として好調だ。日本のそれは1~3%なので、約10倍の水準にある。GDP成長率の鈍化など、中国の経済におけるネガティブな情報が多くなっているが、日本とは比べものにならないスピードで急成長している状況に変わりはない。
ただし、中国の情報サービス産業が急成長しているといっても、すべての分野が堅調というわけではない。14年の市場動向では、伝統的ビジネスといえるシステムインテグレーション(SI)とソフトウェア製品の売上高全体に占める割合が、それぞれ前年比で0.7と、0.3ポイント減少。これに対して、コンサルティングサービスやデータ処理・運用系サービス、組み込みソフトの比率が伸びている。中国の情報サービス業でも、サービス型のビジネスが普及していきそうだ。
Chapter 3
モノ(商材)
クラウド急成長中、日本と同等の伸び率
モノ(商材)については、中国でも定着してきたパブリッククラウド市場規模を観察してみる。工業和信息化部のデータで、13年の中国パブリッククラウドサービスの市場規模は、約47億6000万元(約904億円)、前年比36%増だ。
調査元が違うので、単純比較はできないが、IT調査会社のIDC Japanによれば、日本のパブリッククラウド市場規模(13年)は、前年比37.4%増の1302億円。成長率はほぼ同じ。日本と同様にクラウド関連のビジネス環境が活況であることがわかる。
中国のパブリッククラウドをIaaS、PaaS、SaaSで分けてみると、IaaSが10億5000万元(12年比成長率は105.4%増)、PaaSが2億200万元(同19.5%増)、SaaSが34億9000万元(同17.4%増)。規模が大きいのがSaaS、成長率が高いのがIaaSという構図だ。IaaSが急成長しているのは、ネットサービス系企業の台頭がある。バイドゥやテンセントなどネットサービス系企業の成長がめざましく、それを支えるIT基盤としてIaaSを採用しているのだ。このニーズに対応するように、優刻得(UCloud)や青雲(qingcloud)などの新興IaaSベンダーが登場。需要と供給がマッチして、市場規模が爆発的に大きくなっている。