2014年もさまざまなキーワードが生まれたIT業界。スタートした2015年、今年はどんな業界を動かすNew Wordが生まれるだろうか。2015年に流行りそうな言葉を編集部の記者全員が考察し、2015年の新たなムーブメントを予想した。(『週刊BCN』編集部)
Trend 1 開発スタイル編
リアルタイム・アジャイル
システム開発を顧客先での打ち合わせだけで完了させるという開発スタイル。打ち合わせの場で要望をシステムに反映し、確認できることから、持ち帰って修正するよりも再修正の手間や時間を減らすことができる。開発担当者は、打ち合わせ以外では開発に携わらないので、作業工数を減らすことができる。ユーザー企業は、システムを活用するなかでの要望を、次の打ち合わせまでに用意しておく。リアルタイム・アジャイルは、主にPaaSを利用するもので、システム開発のスピードを劇的に高める。
Trend 2 テクノロジー編(1)
ゼロクラウド
IaaSに対して完全に独立した運用ができるシステム、またはそのシステム環境を指す。群雄が割拠して沸騰中のIaaS市場だが、零度に冷やし、水面をフラットにするイメージから、“ゼロ”としている。
ゼロクラウドでは、どのIaaSベンダーの環境にも依存せず、いつでも移行ができることから、レスポンスや価格など、自社の要件に最適なIaaSを渡り歩くことができる。地域紛争や災害などの対策としても有効である。重要なポイントは、ベンダーロックインの回避ではなく、クラウドロックインの回避が目的だということ。その意味で、ゼロクラウドはIaaSのコモディティ化を実現する。
Trend 3 テクノロジー編(2)
Open PaaS
セールスフォース・ドットコムの「Force.com」や、マイクロソフトの「Microsoft Azure」に代表されるプロプライエタリなPaaSが先行して普及しているが、2015年は、“Open”なPaaSが一気に広がる。
Open PaaSの実行環境として、「Cloud Foundry」や「OpenShift」といったオープンソースのPaaSソフトウェアを採用したサービスが続々とリリースされており、これらの活用が拡大している。Cloud Foundry陣営では、もともとの開発者であるVMwareとEMCなどの合弁会社Pivotal、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)などが存在感をみせている。また、OpenShift製品も、レッドハットが注力している。日本IBMの幹部は、「オープンなPaaSは、クラウド上のアプリケーションをロックインから解放する。大事なアプリケーションをクラウド化するには、インフラ移行の自由が確保されていなければならない」と指摘している。Open PaaSのベンダー同士が、差異化をどう進めるかも含めて、見逃してはならないテクノロジーになる。
Trend 4 マーケット編
SB3
期待されながらも、なかなか爆発しないスモールビジネス(中小企業向け事業)市場。2015年は、この市場が急成長を遂げ、中堅・大企業向けIT市場にも大きな影響を与える。このムーブメントが「スモールビジネス・ビッグバン(Small Business Big Bang)」、略して「SB3」。
その背景には、クラウドネイティブな業務アプリを世に出すITベンチャーの台頭がある。会計クラウドのfreee、請求書作成サービスのスタンドファーム、決済サービスのコイニー、名刺管理のSansanが代表例だろう。支持を集めている理由は「使いやすさ」。コンシューマ向けアプリ/サービスベンダーの方法論を踏襲しているからこそ実現できたといえるが、既存のビジネスソフトウェアベンダーも、この事実を無視すべきではない。大手企業向けのERPを手がけるワークスアプリケーションズも、コンシューマ向けITと同等以上の使い勝手を目指した新しいアーキテクチャの製品を世に出そうとしている。SB3実現のカギは、コンシューマも使えるくらいの使いやすさだ。
Trend 5 海外編
China to ASEAN
日系ITベンダーの中国法人が、ASEAN地域のグループ企業と連携して、現地の日系企業を支援する動きが始まる。中国の日系企業向けITサポートで培ってきた経験とノウハウを、ASEANに移植する。
2014年、日系企業は中国への新規投資を控える一方、ASEANには積極的で、それに紐づいて日系ITベンダーのASEAN進出も相次いだ。しかし、日系ITベンダーが、ASEANの新拠点で人員を育成したり、現地向けのソリューションを開発したりするには、相当な時間がかかる。そこでASEANよりも一足先に進出した中国の出番。日本本社ではなく、中国の現地法人がASEANのユーザーを支援するという構図だ。すでに一部のITベンダーでこの動きがある。新日鉄住金ソリューションズの上海法人(NSSOL上海)は、アプリケーション開発基盤「intra-mart」を主要製品として取り扱っており、現地の日系企業のニーズを踏まえて業務テンプレート「BizBooster」を開発。これを、NSSOLのシンガポールとインドネシアの拠点でも提供しようとしている。電通国際情報サービスの上海法人(ISID上海)も、現地開発したリース業向け基幹システム「Lamp」のASEAN展開に意欲的。中国法人とASEAN法人の連携を進めようとする動きは、ITベンダー日本本社の人事戦略からもみて取れる。例えば、インテックやDTSでは、中国法人の総経理が、ASEANを含めた海外ビジネスを統括している。多くの日系ITベンダーにとって、最初の海外拠点であった中国での経験を、ASEANに生かす動きが2015年は一気にくる。
Trend 6 政策編
真・IT融合
ご存じだろうか、政府のIT戦略の中枢である経済産業省が今から4年ほど前に立ち上げた「IT融合」というコンセプトを。異業種の企業と協力し、ITベンダーだけで思いつかないような製品・サービスをつくったり、従来の販売方法とは異なる新たなチャネルを創造したりすることを指す。鳴かず飛ばずで具体的な実績がみえてこなかったこのIT融合だが、最近になってようやく兆しがみえてきた。ベンダーとユーザーが新たな製品・サービスを生み出したり、新しい販路が生まれたりするケースが出てきたのだ。
中堅SIerの三井情報と作業服などの衣料品店経営のワークマンの協業は好例。三井情報は、需要分析ソリューションをワークマンに納入。その価値を認めたワークマンが取引先に提案し購入を促す。つまり、ユーザーが販社になったわけだ(13面に関連記事)。製品・サービスの創出では、医療機器メーカーとITベンダーが協力して、ネットワーク機能装備の補聴器を開発したケースなども目立ってきた。新たなイノベーションを起こすためにユーザーの知恵を借りる──。そんな融合がようやく動き出しそうだ。
適材適語
本紙記者が選んだキーワードは、納得できるものもあれば、強引な印象を受けるキーワードもあり……。他産業に比べて技術進化が激しく、何がトレンドになるかわからないのがIT業界。クラウドというメガトレンドのなかで、どんな新しい技術、商品、売り方が登場するか。2015年も新たなムーブメント、新語がきっと出てくるはず。編集部では、それらをいち早くつかんでわかりやすく説明し、IT産業を盛り上げていきたいと思います。(『週刊BCN』編集部)