日本オラクル(杉原博茂社長兼CEO)は、最新のデータベース(DB)管理システムである「Oracle Database 12c」の処理性能をインメモリ技術で向上させるソフトウェア「Oracle Database In-Memory」の提供を開始した。同社にとっては、単にDBの大幅な高速化を実現する製品というだけでなく、「ナンバーワンクラウドカンパニー」になるという目標を実現するためのキーとなる重要な技術だ。Oracle Database In-Memoryを日本市場にどう浸透させ、どのようなビジネスを創出しようとしているのか、日本オラクルの戦略を追った。(本多和幸)
ビッグデータのリアルタイム活用

杉原博茂
社長兼CEO 日本オラクルが提供を開始したOracle Database In-Memoryの技術的な特徴は、オンライントランザクション処理(OLTP)の高速化と構造化データ分析の高速化を同時に実現した点にある。リレーショナルデータベースで長年使われてきたフォーマットで、OLTPを得意とするロー(行)型に加え、アナリティクス処理に適したカラム(列)型という二つのフォーマットを同時にメモリ上にロードして利用できるようにした「デュアル・フォーマット・インメモリ・アーキテクチャ」を採用している。
杉原社長は、「OLTPの世界だけでなく、ビッグデータの分析や活用に最も重要なデータウェアハウス(DWH)の世界でも、リアルタイム処理を可能にする。つまり、リアルタイムにビッグデータを分析して、業務オペレーションや経営判断に役立てていくソリューションを具現化する、とんでもなくすごいテクノロジー」と自賛する。
ただし、インメモリDBについては、SAPが「SAP HANA」を他のDBベンダーに先がけて世に出し、市場を開拓してきたほか、IBMの「DB2」やマイクロソフトの「SQL Server」といった有力DBソフトの最新版も、インメモリ機能を備えている。こうした競合製品に対する強みについて、米オラクルでDB製品のプロダクト・マネジメントを担当するティム・シェトラー・バイスプレジデントは、「オラクルDBのユーザーは、Oracle Database In-Memoryを容易に導入できる。既存アプリケーションに変更を加える必要がなく、そのまま使うことができるからだ。もちろん、データの構造に変更を加える必要もない。可用性やサーバーの障害耐性も、他社のインメモリDB製品との大きな差異化ポイントになっている」と説明している。
国内では、約1000社のパートナー網と2万8000社の顧客基盤をフル活用し、インメモリDB市場のトップベンダーを目指す。まずは年内に、パートナー、ユーザー所属のインメモリDBエキスパートを1000人育成する。さらに、ユーザーやISVパートナーに対する無償のインメモリ・アセスメントサービスも行い、Oracle Database In-Memoryへの移行を支援していく考えだ。
パートナーと一緒にビジネス開拓
Oracle Database In-Memoryは、日本オラクルが「ナンバーワンクラウドカンパニー」を実現するためのキーテクノロジーでもある。同社のクラウド戦略は、必ずしもパブリッククラウドが中心というわけではない。プライベートクラウドやハイブリッドクラウドも含め、シームレスに最適なクラウド環境を提供することを基本としている。パブリッククラウドで自社のITサービスを提供するかたちも、パートナーと協業して、クラウドベンダーやエンドユーザーにクラウド基盤を提供するかたちもあるが、いずれのケースでも、インメモリDBをコア技術として活用していくということだ。
杉原社長は、「プライベートクラウドはもちろん、パブリッククラウドでも、ミッションクリティカル性への要求が高まるのは間違いない。そこにオラクルはフォーカスする。OLTPとDWHを同時に高速処理できるOracle Database In-Memoryは、完全なマルチテナントのクラウド対応製品でもあり、ビッグデータやIoT(Internet of Things)といったトレンドを踏まえたミッションクリティカルなクラウド基盤としての要件を満たしている」と説明する。
こうした新しい技術を売るのは、パートナーにとっても新しいビジネスであり、ノウハウがない。それをカバーするために、日本オラクルは組織を改編してアライアンス事業を強化し、直販のリソースをハイタッチ部隊にシフトして、「メーカーとパートナーが一緒に新しい市場を開拓する」(杉原社長)という姿勢を鮮明にしている。杉原社長は、「クラウドはボーダーレスにビジネスを拡大できるので、パートナーと一緒に全国津々浦々まで攻めたい。とくにローカルキングといわれるような地方の中堅SIerとの協業を重視している。ベストプラクティスを共有しながら、新しいミッションクリティカルなクラウドの世界を切り開いていきたい」と話す。
インメモリDB市場の競争が激化
圧倒的なボリュームのパートナー網と顧客基盤を誇るオラクルが、既存ユーザーの利便性に配慮したOracle Database In-Memoryを市場投入したことで、先行する競合製品の成長が鈍る可能性は否定できない。ただし、例えば先行するSAPは、ソフトバンク コマース&サービスと、HANAなどのプラットフォーム製品を包括的に取引する新たなディストリビューション契約を結び、SMB向けの販路を整備している。インメモリDBの国内市場の競争は、にわかに激しさを増しそうだ。
また、自社の既存アプリケーションのクラウド化では、競合同士の戦略に大きな違いがみられる。SAPは、すべての自社アプリケーションをHANA上に展開し、パブリッククラウドで提供する戦略をとっており、日本でもERPなどの基幹系アプリケーションまでをラインアップしている。対する日本オラクルは、他国で提供しているクラウドERPを日本市場で提供することにはまだ慎重な構えをみせている。杉原社長は、「何でもかんでも今すぐクラウドにすればいいというものではない。お客様の状況やパートナーのレディネスをみながら進めていく」と話している。アプリケーションレイヤでの戦略の違いが、クラウド基盤でもあるインメモリDBの市場にも、影響を与える可能性がある。