業務用インクジェットプリンタや3次元切削加工機を製造・販売するローランド ディー.ジー.は、2012年8月、日本以外での部品調達・生産・輸出拠点として、タイに初の海外工場を建設した。ビジネスを支える基幹のITインフラには、ERP(統合基幹業務)パッケージ・会計システムとして「A.S.I.A.」を、原価・生産管理システムには「MCFrame」を採用。両システムともに、東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)のパッケージソフトを選んだ。
【今回の事例内容】
<導入企業>ローランド ディー.ジー.業務用プリンタや3次元切削加工機の製造・販売を手がける。連結の従業員数は1119人(2014年3月末時点)。年商は421億4100万円(2013年度)
<決断した人>エグゼクティブ
ジェネラルマネージャー
倉田裕司 氏
タイ工場の立ち上げ業務を統括。ITインフラ整備も中心メンバーとして推進した
<課題>初めての海外工場の開設で、基幹システムを構築。短期間での導入が求められた
<対策>本社ではSAP製品を採用していたが、日系企業の海外法人で実績が豊富なB-EN-Gの製品を導入した
<効果>稼働と同時にITインフラの構築も完了し、経理業務と生産業務を支援。月630台のプリンタ生産を支える重要な基盤として稼働中
<今回の事例から学ぶポイント>海外法人では短期導入が求められる。ユーザー企業の日本本社と現地法人が密に連携した体制の下、ITベンダーにとっては、短期間での導入が顧客満足度を上げる秘訣になる
初の海外工場をタイに
ローランド ディー.ジー.は、2012年まで、国内はもとより、海外に出荷するプリンタも含めて、すべて本社がある静岡県浜松市の工場で生産してきた。しかし11年に、新興国向けの販売強化と、調達・生産・輸出拠点の複数化による事業継続計画(BCP)の推進、製品原価の低減を目的に、海外に工場を設けることを決断。企業誘致に積極的で、産業集積が進んでいること、良質なインフラと物流網が整備されていること、熟練労働者がいることなどを理由に、進出先としてタイを選んだ。
タイ工場の延べ床面積は約4200m2で、14年6月末時点の従業員数は、日本人3人を含めて約100人。当初は新興国向けプリンタを中心に月に約500台を生産していたが、その後、旺盛な需要によってミッドレンジ機種の生産も求められるようになったことから生産力を高め、直近では月産630台を達成している。現在、生産機種の拡大を視野に入れて増床中で、完成すればこれまでの倍の広さになるという。
タイ法人の洲崎晃社長は「ビジネス環境は良好で、生産が追いついていない。今後力を入れるのは、生産力を高めながら部材の現地調達率を上げること。現地調達率は、13年末の時点で30%だったが、15年末には60%まで引き上げたい。主要部品以外は、すべてタイで調達したい」と話す。

ローランド ディー.ジー.にとって初の海外生産拠点であるタイ工場プロジェクトを先導したのは日本
タイ工場は、経営陣からできる限り早い時期の本稼働が期待されていた。倉田裕司・エグゼクティブジェネラルマネージャーによれば、「垂直立ち上げが求められていた」という。建屋の建設だけでなく、ITインフラも短期間での構築が必須。タイ法人にはIT担当者がいなかったので、倉田エグゼクティブジェネラルマネージャーが現地の要望を本社に伝え、本社が実現する体制をとった。日本の情報システム部門がイニシアチブを発揮し、倉田エグゼクティブジェネラルマネージャーが現地のベンダーや現地スタッフとの調整を担いながらプロジェクトを進行させていったという。
「本社は基幹システムにSAP製品を採用していたが、タイ法人の規模には不釣り合いで、高額。選択肢からは外れた。条件は、海外拠点での実績があることと、短期間で導入できること、タイ人でも戸惑うことなく操作できるユーザビリティをもつこと、そして、私たちの独自の生産方式にマッチさせるためのカスタマイズが容易なことだった」と、倉田エグゼクティブジェネラルマネージャーは振り返る。
現地法人が運用を支える
本社と協議の末、企業経営の根幹を担う会計システムとして、B-EN-Gの「A.S.I.A.」を選び、導入した。生産管理は、工場立ち上げ時に導入したシステムから、B-EN-G製の「MCFrame」へと切り替えているところだ。「『A.S.I.A.』は導入・利用ともに問題がなく、『MCFrame』にも期待している」と倉田エグゼクティブジェネラルマネージャーは語る。タイ人の経理担当者も、「A.S.I.A.」を「使いやすい」と高く評価する。

タイ法人の洲崎晃社長(右から2番目)と倉田エグゼクティブジェネラルマネージャー(右から3番目)。右端は「A.S.I.A.」を使いこなすタイ人経理担当者、左端は日本人の情報システム担当者 「『A.S.I.A.』の導入に際しては、現地工場が立ち上がる前に、B-EN-Gのタイ法人と契約しなければならず、その点で手続きや打ち合わせに手間取った。一方で、タイにB-EN-Gの現地法人があるおかげで、サポート体制や操作方法のレクチャーなどのサービスが充実していて、大いに助けられた」と、倉田エグゼクティブジェネラルマネージャーの評価は上々だ。
海外の現地法人は、往々にして垂直立ち上げを求められる。たとえ基幹系システムであっても、ユーザー企業は日本よりも短期間での導入を要求する。海外拠点へのITシステム導入は、「スピード」がユーザー企業の重要な判断基準になることを象徴する事例だ。(木村剛士)