前職での経験を買われ、直販営業のスペシャリストとしてエプソン販売に入社した上田さんだが、現部署で担当しているのは、国内最大手のITベンダーである販売パートナーを対象とする営業だ。異動直後、手痛い失敗をしたことが、今でも大きな教訓となっているという。基本や初心の大切さをあらためて考えるきっかけとなったその出来事とは──。(構成/本多和幸 写真/長谷川博一)
今も教訓としている手痛い失敗
私は2001年にエプソン販売に中途入社し、2006年に現在の部署に異動して、国内最大手のITベンダーである有力パートナー企業を専属で担当することになった。入社から数年が経って、年齢的にも仕事にそれなりの自信をもってきた頃だったのだが、ここに思わぬ落とし穴が待っていた。
現部署へ異動して間もなく、このパートナー経由で大手外食チェーンからの受注が決まり、当社の製品の納入が始まった。そんなある朝、「トラブルが発生している」という一報が私に入った。すぐに上司へ報告したところ、「早く手を打たないと大問題になるぞ」と忠告された。ところが私は、それまでの自分の経験から、「週明けの対応でも問題ないだろう」と考え、2~3日放っておくという判断をしてしまったのだ。
すると、その日のうちに、パートナーの上層部などから、すぐに動いてくれなければ困るというクレームが入った。私が所属する部署だけでなく、部門全体、そしてメーカーであるセイコーエプソンを巻き込んで不眠不休で対応しなければならない大問題に、あっという間に広がってしまったのだ。こんな場合、問題をいかに最小限にとどめてソフトランディングさせるかが営業の腕の見せどころだが、私の判断はいかにも遅く、見通しが甘かった。
お客様にはそれぞれ個別の事情があるので、あるお客様で類似のトラブルを経験したからといって、同じ対応で済むわけはない。それなのに、過去の経験だけをもとに判断してしまった。目の前で現実に起こっている事象を踏まえた判断をしていなかったのだ。
結果的にこのトラブルは、社内やパートナーの協力に支えられてなんとかことなきを得たが、私にはいくつもの教訓を与えてくれた。周囲の意見に謙虚に耳を傾けること、自分の経験だけに頼った判断をしないこと、そして何よりも「トラブル対応はすぐに取りかかる」という原則の大切さをあらためて痛感した。また、異動後すぐの案件ということもあって、どこかひとごとのような意識があったことも否定できない。これをきっかけに、社内外の情報に対して一層アンテナを高く張り、あらゆる仕事を「自分ごと」として認識するようになった。今でも自分の行動指針になっているターニングポイントだったといえる。
営業の仕事は、何といっても、人と人とのつながりが最も大切だ。パートナーとの信頼関係をしっかり構築するために、依頼や要望があれば、相手の要望を上回る105%の返答をしようと心がけている。先方の期待よりも早く返答したり、ニーズを先取りした提案をするということだ。
そのためには、顧客接点を多くもつことが欠かせない。インターネットが発展したこともあって、営業マンにとっても情報過多の時代になった。商談には事前準備が大事だが、多すぎる情報に惑わされて、客先への足が鈍るのが一番よくない。泥臭いけれど、結局は、客先に足を運んでたくさんの人と会い、そこから学ぶことが最も重要だと思っている。
●日常使う営業ツール.......... 会社支給のiPhoneを普段の業務にフル活用している。顧客からのメールへのレスポンスが従来に比べて格段に速くなった。社内SNSに「Salesforce Chatter」を導入していて、チームの情報共有もiPhone経由で行うことが多いという。
●上司からのひと言.......... いま当社は、販売パートナーへのサポートに加えて、プロダクトやソリューションを実際に利用しておられるお客様へのアプローチを強化している。上田君は過去の直販営業としての経験を遺憾なく発揮し、さらには販売パートナーへの営業活動で培ったノウハウを活用しながら、エプソンのトップセールスに昇りつめた。今後も顧客に魅力的な提案をし続けて、当社の価値を高めてくれると期待している」(豊田誠・SI営業部SI首都圏営業四課課長)