IaaSやPaaSなどのクラウド製品の差異化が図りにくくなっている状況にあって、他社クラウドを含めた構築サービスに力を入れて収益の確保を目指すITベンダーが現れている。富士通や日立は、「クラウドインテグレーション」に精通するシステムエンジニア(SE)のプロ集団を育成し、クラウド導入のコンサルティングや導入後の運用サービスなどを中核商材として、クラウド事業の拡大に拍車をかける。調査会社のIDC Japanは、「クラウド向けITサービス」市場は、2017年には5793億円に伸びるとみている。
大手各社はプロ集団を走らせる
富士通は、2010年に「クラウドインテグレーション」の社内認定制度を設けて、SEのトレーニングに着手した。そして今年5月、「クラウドインテグレータ」を2000人育ててきたことを明らかにした。金融や流通など、特定業種に特化したスキルをもつプロ集団だ。富士通は、クラウドインテグレータによるコンサルティングや構築、運用などのクラウド向けサービスの展開によって、国内クラウド事業の売り上げを、今年度(2014年3月期)は、前年度の2倍となる3000億円に引き上げることを目標として掲げている。
クラウドインテグレータたちは、富士通のIaaSやPaaSに限らず、他社を含めた複数のクラウドを組み合わせ、業務内容に適したかたちでユーザー企業に提案。システムの稼働後も、統合監視・運用をはじめとするサポートを手がける。
サービスビジネス本部の水野浩士本部長代理は、「IaaS・PaaSをあくまでクラウド型システムをつくるための道具と捉えて、ヒトによって、お客様のビジネス改善につながる付加価値をつける。お客様が富士通のクラウド製品を選ばなくても、周辺サービスの提供によって収益を確保する」と、クラウドインテグレーションの構想を述べる。
調査会社のIDC Japanによると、国内のクラウド向けITサービス市場は活況を呈している。ユーザー企業はクラウドを導入する際、基幹システムとの連携やモバイル活用を課題とするほか、サービスの数が多いので、ユーザー側で最適なものを選定することが難しいといったことが背景にある。
IDC Japanは、クラウド導入にあたってのコンサルティングやSI、アプリケーション開発で構成される「プロフェッショナルサービス」の旺盛な需要にけん引され、クラウド向けITサービス市場は2012年の1528億円から、17年に5793億円に拡大することを見込んでいる。12年の3.8倍の規模になるわけだ。
クラウドメーカーを超え、クラウドインテグレータ、すなわち“CIer”を目指す──。これを、クラウド事業を本格的に伸ばす道と判断し、富士通以外の大手メーカー系も動き出している。
日立グループは、クラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」との連携を推進しており、AWSを活用したサービスの提供を強化するために、AWS認定技術者の育成に取り組んでいる。13年度中に、日立グループ全体で200人を育てる計画だ。
NECグループのアビームコンサルティングは6月上旬に、AWSを基盤とするクラウド移行サービスを投入した。同社のコンサルティング力を生かして、業務システムのあるべき姿を描いたうえで提案し、移行後の運用・保守も提供する。
クラウド構築サービスの展開は、大手メーカー系以外への横展開が期待される。中堅・中小ベンダーも、自社にIaaS・PaaSの商材をもたなくても、クラウドの構築スキルを磨けば、新しいサービス展開が可能になるからだ。実現に向けて早期にSEの育成に取り組み、クラウド構築のエキスパートを育てることが求められている。(ゼンフ ミシャ)