【バンコク発】2011年にタイの工業団地を襲った洪水は、生産拠点を置く多くの日系企業に影響を及ぼした。現在、被害を受けた工業団地は、高い防水壁が建てられ、同レベルの洪水なら少なくとも団地内は守ることができる状態まで復旧した。このタイミングで、昨年の尖閣問題で日中関係が悪化し、中国以外へ工場を分散化する動きが急ピッチで進んだ。タイの工業団地では、浸水した工場の建屋と設備を入れ替えて再度入居したり、新たに入居する日系企業が目立つ。いま、タイで日系企業向けに事業を展開する企業はこの対応に大わらわで、これに付随したITの整備も始まっている。(取材・文/谷畑良胤)
人海戦術をクラウドに
産業機器や車輌、高所作業車などの総合レンタルを手がける静岡県のレントは、タイ現地法人のレント・タイランドでの事業拡大を見越し、機器や人員の拡充、ITの再整備を進めている。同社は現在、タイの東南に位置する工業団地が集中する中核地域であるアマタナコンとイースタンシーボードの両工業団地に店舗を構える。今後、団地内に工場を設置する日系企業などからの受注が増加傾向にあるため、「2014年4月期から4年間で、10店舗までブランチを増やす」と、同社の長谷川文明社長は意欲的な見通しを示す。
レント・タイランドは、15分野2000アイテムの産業機器をレンタルしている。ほとんどの機器は、静岡本社を中心に日本国内で活用している日本製だ。タイに展開する大手ゼネコンの佐藤工業を例にとれば明快だが、工場建設ラッシュが続き、レント・タイランドでも高所作業用機器や特殊小型機器の貸し出しが目に見えて増えている。
長谷川社長は、「日本では新商品でも数年で陳腐化する。一方、東南アジアでは、これら高機能な機器を使うニーズが高くなる。当社のビジネスは、顧客の利便性を向上するために大量の機器を保有し、それを効率よく運用することで利益を得る」と、日本の需要低迷をカバーするために東南アジアに新たな市場を求めた判断が奏功したという。
そのレント・タイランドは今年1月、ビジネス拡大に対応すべく、レンタル管理システムと会計システムとの密な連携を図るために、東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G、石田壽典社長)の「A.S.I.A.GP」を採用し、会計システムを刷新した。同社によれば、タイ参入の当初は案件も少なく、請求・入金管理などの会計業務を人海戦術で行っていた。だが、レンタル量が増えるに従い、手作業が限界に達し、1年ほど前から新システムの検討を続けていた。
多言語対応は必須
鈴木部長によれば「当初は、静岡本社で使っている自社開発の『レンタル機器顧客管理システム』を利用することを視野に入れていた」と話す。しかし、タイの商習慣に準じる必要性や、レンタル事業での会計処理の複雑性、将来的なブランチ増設に備えて柔軟性が高く、現地法人の社員が簡単に扱えるシステムとなると、本社システムでは機能過剰だと判断した。
同社は、「A.S.I.A.GP」の導入を昨年9月に決定し、帳票レイアウトやシステム間連携の機能などの微調整を経て、今年1月に本稼働した。長谷川社長は「今後の拡大計画を見越すと、トランザクション数の急増が予想され、既存の簡易なシステムでは対応できないと判断した。現地法人のタイ人社員が英語で入力した画面から日本語にすぐ切り替えられ、静岡本社で状況把握もできる」と、システム面での導入メリットを説明する。
システム面もさることながら、導入の決め手の一つとなったのが、現地でのサポート力だ。鈴木部長は「現地でタイ語、日本語、英語でサポートが受けられ、B-EN-Gのタイ法人、パートナーであるインテックの現地法人であるインテックシステムバンコムや東洋ビジネスエンジニアリングタイランドから直接指導してもらえることが採用の理由だ」と語る。同社の会計処理は、タイ人社員が担っていたが、「これまで2~3週間で処理する分量を、『A.S.I.A.GP』の導入で1時間に大幅短縮できた」(長谷川社長)と、すぐに成果が現れていると喜ぶ。
レント・タイランドのシステムを構築したのは、インテックシステムバンコク。また、このシステムはNTTコミュニケーションズタイランドのIaaS「Digi-path Cloud Service」を利用したプライベートクラウドだ。タイ国内には、日系企業をサポートするITベンダーが増えている。

タイで産業機器のレンタル事業を手がけるレント・タイランドの長谷川文明社長(左)とシステムを支援したインテックシステムズバンコクの中智弘社長