湯河原中央温泉病院(神奈川県湯河原町)は、富士通マーケティング(FJM)から医療法人向け財務会計システムを導入するタイミングで、これまで手作業でデータ入力していた業務を自動化した。医事会計や介護請求システムからアウトプットされたデータを、医療機関向け財務会計システム「GLOVIA smart きらら会計(医療法人対応版)」に橋渡しするモジュールを個別に開発。このモジュールを使うことで医事会計系から病院会計へのデータの受け渡しを自動化し、会計業務の省力化、コスト削減につなげた。
ユーザー企業:湯河原中央温泉病院
「安心して長期に医療・看護・介護を受けていただく」を基本理念とし、ベット数は345床(内訳は医療用が279床、介護用が66床)。1980年代から富士通の医事会計システムを活用している。
プロダクト提供会社:富士通マーケティング(FJM)
プロダクト名:「GLOVIA smart きらら会計(医療法人対応版)」「きらら自動仕訳モジュール」
【課題と決断】手組みシステムがブラックボックス化
医療機関では、電子カルテや医事会計システム(レセプトコンピュータ)など、さまざまな情報システムが活用されている。ITベンダーも医療機関向け情報システムの開発に意欲的に取り組んでいるものの、意外な盲点となっているのが病院経営で使う会計システムである。とくに中堅・中小規模の病院では市販の会計ソフトを使うケースが多く、湯河原中央温泉病院も例外ではなかった。
湯河原中央温泉病院は1980年代からの富士通のレセコンユーザーで、2000年の介護保険制度の導入時には富士通製の介護請求システムを採用している。医療機関も法人である以上、レセコンとは別に、経営を行うための会計システムを必要としてきた。だが、「これまで医療法人に適した財務会計ソフトが見当たらなかった」(湯河原中央温泉病院の梅原薫総務部長)ことから、やむを得ず市販の会計ソフトを使っていた。これではレセコンや介護システムからアウトプットされたデータを自動的に病院会計に反映することができないので、どうしても手入力する作業が発生してしまう。
会計ソフト以外にも、市販のデータベースソフトで独自につくった入院費収納システムがあって、これにも手入力する手間がかかっていた。さらに決定的だったのが、入院費収納システムが稼働していたサーバーが、2011年暮れにハードウェアの寿命で不具合を起こしてしまったことだ。こうしたアクシデントがきっかけとなり、新システムへの移行を決断することとなった。手組みのシステムは、担当者の交代などで、すでに中身がブラックボックス化しており、「メンテナンスにも手間がかかる」(湯河原中央温泉病院の菅谷和大・経理課副主任)状態だったのも、新システム移行を決断する大きな要因となった。

写真右から湯河原中央温泉病院の菅谷和大・経理課副主任、梅原薫総務部長、富士通マーケティング(FJM)の稲箸明プロジェクト課長【効果】3人のSEがデータ連携を進める
富士通マーケティング(FJM)は、2011年8月に製品化した「GLOVIA smart きらら会計(医療法人対応版)」を湯河原中央温泉病院に提案していたが、これだけでは市販の会計ソフトと手組みの入院費収納システムを代替する役割しか果たせない。そこで医事・介護系のシステムと病院会計システムのデータを連携させるモジュールの開発も合わせて提案。湯河原中央温泉病院はモジュールの開発を受け入れ、FJMでは、医事会計と介護請求、きらら会計の3人のSEを中心にモジュール開発に取り組むことになった。
梅原総務部長は「それぞれのシステムの専門家が張りついて、こちらの要望も細かく聞き入れてくれたことに好感を抱いた」と、FJMの開発体制を高く評価。2012年4月の稼働後も、連携部分で数字の桁が食い違うなど何件かのエラーが出たが、「そのつど、迅速に対応してくれた」(菅谷経理課副主任)と満足げだ。本稼働直後は元となる医事会計などの帳票と、自動連携後にアウトプットされる病院会計の数字や、伝票の通し番号など突き合わせる作業を行っていたが、「すでにエラーは出なくなっており、もう少し慣れてくれば、システムとして完結できる」と、10年余り発生していた手入力から脱却するめどをつけた。
FJMでは、「多くの中堅・中小病院は、医事会計系と病院会計系との間にギャップを抱えている」(FJMの稲箸明・きらら会計・人事給与ビジネス部プロジェクト課長)という状況を把握しており、湯河原中央温泉病院をモデルケースとして、連携モジュールを「きらら自動仕訳モジュール」として製品化。全国の同様の課題を抱える医療機関に向けた横展開につなげている。(安藤章司)
3つのpoint
データ連携モジュールで手入力をなくす
市販会計ソフトから専用の会計ソフトへ
自家製ソフトを廃してパッケージを採用