日本ヒューレット・パッカード(日本HP、小出伸一社長)とデル(郡信一郎社長)は、急ピッチでソフトウェア事業の拡大に取り組んでいる。年々、売上規模が減少しているパソコン事業からのシフト転換を急ぎ、収益性の高いソフトウェアを柱とするソリューション提案の強化を目指す。しかし、パソコン事業の落ち込みが想定以上に大きく、直近では、まだ規模の小さいソフトウェア事業で売上減を補うことができていない。一方、クラウドやビッグデータがソフトウェアの新たな需要を生む。そんな状況下、日本HPとデルはソフトウェア事業の体制づくりを進め、必死に市場開拓に動いている。

日本HP
中川いち朗
常務執行役員 調査会社の米ガートナーが、4月10日、2013年1~3月のグローバルでのパソコン出荷台数を発表した。同社によると、首位のHPは23.6%減、3位のデルは11.2%減と、いずれも前年同期比で大きな減少を記録した(図1参照)。日本を含めたアジア太平洋地域では、ガートナーがパソコン出荷台数の調査を開始して以来、最大の落ち込みがみられたという。
一方、ソフトウェア市場は活況を呈している。調査会社のIDC Japanによると、国内のソフトウェア市場は、システムの仮想化やビッグデータ活用の需要にけん引され、2012年の2兆2508億円から、2017年までに2兆5000億円強に拡大することが見込まれている(図2参照)。年平均で3.4%の成長率となる。
「2012年度、当社ではソフトウェア事業の売り上げがおよそ30%の伸びをみせた」。日本HPソフトウェア事業統括の中川いち朗・常務執行役員は、誇らしげに語る。しかし、裏返せば、母数が小さいということでもある。日本HPは、運用管理やテスト自動化などのポートフォリオを揃え、ここにきて本格展開に取り組んでいる。
このほど、KDDIが日本オラクルのデータウェアハウス(DWH)ツールを、日本HPの「Vertica」に入れ替えた。日本HPが昨年末に営業をかけて、短期間に受注にこぎつけた案件だ。また、「国内データセンター(DC)のトップ10のうち、五つのセンターに当社の運用自動化ソフトウェアを納入している」(中川常務)というように、DC向け運用自動化の分野でも、導入実績を積み重ねつつある模様だ。
これまでソフトウェアのポートフォリオが弱かったデルも活発に動き出した。2012年9月に米国本社が、IT管理ソフトウェアを提供する米クエスト・ソフトウェアの買収を完了した。日本では、今年2月1日をもって日本クエスト・ソフトウェアを「デル・ソフトウェア」に社名変更して、新社長のバスター・ブラウン氏のもと、ビジネスの再編を進めている。
大手通信社の英ロイターによると、デルの米国本社は、ソフトウェア事業を現在の5倍に拡大することを方針に掲げている。今年2月に株式の非公開化を決めたこともあり、秘密主義を強めているが、日本法人を含め、ソフトウェア事業の拡大に向けた体制づくりを推進していることは想像に難くない。
買収に積極的な米デルに対し、米HPの幹部は「オーガニックの成長を目指す」という。M&A(企業の合併・買収)を行わず、自社のリソースでソフトウェア事業の成長を図る戦略だ。
HPとデルのそれぞれの取り組みは、日本の販売パートナーにも影響を及ぼす。日本HPの中川常務は「従来のようなライセンス再販ではなく、今後は、パートナーに当社のソフトウェアを採用してもらい、お客様にサービスを提供するための基盤として活用していただきたい」と、ソフトウェアの販売モデルを変貌させる方針を語る。(ゼンフ ミシャ)