沖縄クラウドを活用する動きが広がっている。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループは、首都圏の主力データセンター(DC)のバックアップに活用し、NTTデータビジネスシステムズは日本とアジア成長市場を結ぶ拠点として沖縄クラウドを位置づけている。沖縄地場ベンダーも自社で開発した業務アプリケーションソフトを全国へ配信する基盤として沖縄クラウドを位置づけるなど、ビジネス創出に意欲的だ。沖縄の地の利を生かしたクラウドビジネスが拡大すれば、これまで割高と指摘されていた通信料金も、需要拡大によって解決の糸口がみえてくる期待が高まっている。(安藤章司)
沖縄クラウドの最大のメリットは、国内データセンター(DC)のおよそ7割が集中する首都圏から1500km以上離れており、同時被災する可能性がほぼゼロである点にある。東名阪の大都市圏のBCP(事業継続計画)やDR(災害復旧)用のバックアップセンターとして、北海道、九州と並んで有望視されている。メリットの二つ目は、アジアの成長市場に近い点で、製造業の優良顧客を多く抱えるNTTデータビジネスシステムズは、「アジア主要都市に展開する顧客のバックアップセンターとして有望」(五十嵐樹生・ITS事業部長)とみている。
キヤノンMJグループは、2012年10月、首都圏で2300ラック相当の最新鋭第3世代DCを開業したタイミングで、沖縄に200ラック分のDC設備を増設。バックアップ用途をメインに合計600ラック体制へ拡充した。キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)の秋葉俊幸・ITサービスマネジメント事業部長は、「大阪などの大都市圏に比べて主に不動産の安さに起因する沖縄のコストメリット、アジア市場へのゲートウェイとなり得る地の利を評価して、首都圏・沖縄でDCネットワークを構成した」と話す。
とりわけミッションクリティカルなシステムを運用する基幹系DCは、バックアップサイトの確保は必須であり、「首都圏と沖縄を組み合せた提案は、顧客からの引き合いも上々」(秋葉事業部長)と、手応えを感じている。沖縄にはキヤノンMJグループのクオリサイトテクノロジーズがあり、「沖縄DCの運営を他社に委託するのではなく、グループ内で完結している点も業界では珍しい」(同)と、首都圏・沖縄の組み合わせによるDCサービスで業界のパイオニアになる構えだ。
ただ、課題もある。遠距離のBCP、DRサイトの需要が高まり始めたのは東日本大震災の発生以降であり、それまでは東京・大阪がメインで、なかには「千葉センターのバックアップを神奈川でとる」(SIer幹部)というようなケースも少なくなかった。先の震災で首都圏内のバックアップはほとんど役に立たないことが判明している。このため需要の拡大に首都圏と沖縄を結ぶ通信回線インフラの整備がまだ追いついておらず、「東京・大阪間に比べて2倍ほど価格が高い」(別のSIer幹部)と頭を悩ませる。
NTTデータビジネスシステムズは、バックアップ専門ベンダーの米ファルコンストアの技術を活用することで「最小限の回線負荷でデータ転送を行うとともに、バックアップ先の沖縄で本番稼働させることもできる」(五十嵐事業部長)と、回線の細さを補う仕組みを導入している。
もう一つは人の問題だ。沖縄にとって日本の情報サービス基盤の一翼を担うことは、地場IT産業の活性化や雇用の創出につながるメリットがあるが、DCだけでは残念ながら雇用創出の効果が限定的であり、地場のIT産業をいかに振興できるかによって雇用創出が多く左右される。
こうしたなか、沖縄でスマートデバイスを活用したPOS管理システム基盤などを開発するグローバルネットワークサービスの北井吉隆代表取締役は、「自社で開発したソフトを沖縄クラウドをベースにサービス化することで、より多くのユーザーに使ってもらえるようにする」と将来構想を語る。これまで個別SIで対応していたシステムでも、地元の沖縄クラウドが安価に使えるようになれば、全国のユーザーに使ってもらいやすくなると考える。首都圏をはじめとするバックアップ需要で一定のビジネス基盤を確保しつつ、その次の段階として沖縄クラウドの地の利を最大限に生かした独自性の豊かなサービスの創出が求められている。
表層深層
沖縄クラウドについては、沖縄県をはじめとする地元も熱心に誘致に取り組んでいる。首都圏+沖縄のDC構成を打ち出すキヤノンITSの秋葉俊幸・事業部長も「バックアップ先の候補がいくつかあるなかで、県からの支援も重要な要素」と、地元からの支援が選定の決め手の一つになったと振り返る。その県からの要望は、なんといっても地場IT産業の振興と雇用の創出だ。
DCは機械の塊であり、多くは遠隔で操作できるため、地場の雇用創出効果は限定的だ。まとまった雇用創出が見込めるのは、やはりシステム開発であろう。野村総合研究所(NRI)が2012年11月に東京郊外の多摩地区に開設した2500ラック相当の大型DCでは、地元自治体からの要望もあって、DCの隣に比較的大規模な事務棟を併設している。NRI社員やユーザーのシステム担当者などが事務棟に詰めてシステム開発などを行う頻度が高まれば、地場商店街などが一定の恩恵に浴することになる。
また、キヤノンMJグループで沖縄に本社を構えるクオリサイトテクノロジーズは、DC運営だけでなくJavaに特化したシステム開発サービスも手がけることで雇用拡大に努めるとともに、NTTデータビジネスシステムズは地場系のベンダーと組んで沖縄クラウド事業を手がける。首都圏の営業力あるベンダーと組むことは、地場IT産業の振興につながり、将来的には沖縄クラウドを活用した、地場ベンダーによる独自のビジネスの拡大にもつながることが期待される。