ネットワークサービスを提供するインターネットイニシアティブ(IIJ)で、クラウドサービス「IIJ GIO」の営業に携わっている向佐登司さん。1年目には実績を上げることができず、「クビになる」という危機感をバネに、「IIJ GIO」の第一人者を目指して全力で走り出した。目的は、お金や出世ではない。世の中を動かしたいという強い思いを源泉として、クラウドサービスの提案活動に奔走している。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/横関一浩)
「やらかす人間」を目指して
前号で述べたように、IIJでは、入社2年目の営業マンは、どんどん案件を獲ってくる「中堅社員」とみなされている。しかし、1年目の実績がゼロだった私は、2年目に入ってしばらくの間も商談がうまく進まず、中堅社員とはほど遠い絶望的な日々を送っていた。
そんな私を救ったのは、2年目(2009年)に新しく発売された法人向けクラウドサービス「IIJ GIO」だった。まったく新しいサービスなので、どんなに経験豊富な先輩でも取り扱ったことがなく、提案の進め方がよくわからない。これぞ自分の力をみせるチャンスだと考えて、全力で動き出した。
私は大学院で学んだこともあってロジカルに考えることが得意だし、行動力もある。しかし、1年目にそうした強みを発揮することができなかったのは、70種類以上に及ぶIIJのサービスに関する知識が乏しく、ベテランばかりの営業チームのなかでどうしても先輩に“負けてしまう”ので、自信を失っていたことが原因だったと思う。しかし、「IIJ GIO」は違う。先輩も私と同じスタートラインに立つので、2年目の私でもクラウドサービスの第一人者になることができる。そういうことを強く感じて、自分を励ました。
早速、文教系大手のお客様に「IIJ GIO」を提案した。当時は、「IIJ GIO」を担当する者のオフィスはまだ統一されておらず、一部が神田神保町の本社に、一部が人形町にあった。私は、お客様から受けた要望を提案に反映させるために、1日2~3回、神保町と人形町を往復し、担当者たちと膝を突き合わせて話を進めた。もち前のコミュニケーション力を生かしながら、提案の改善に力を注いだ。
そうした努力の甲斐があって、お客様から注文をいただくことができた。「IIJ GIO」を包括的に活用する大型案件で、受注金額は5年間で3億円だった。この案件を通じて実感したのは、自分は他人の力を借りることに長けている、ということだ。現在も、そのスキルを磨きつつ、社内のキーパーソンを巻き込んで、「IIJ GIO」の提案活動に励んでいる。
私は、営業パーソンとしての実績を上げるにつれ、人生で何を目指しているかを考えるようになった。はっきりいって、お金や出世には関心がない。何というか、自分の活動が世の中の進化に貢献するという意味で、「何かをやらかす」ことが原動力だと思う。
締めくくりとして、ちょっとした“営業哲学”について触れておきたい。私は「短期的にはネガティブ、長期的にはポジティブに考える」ことを心がけている。つまり、うまくいかないことも想定し、緊張感をもって目の前の仕事をこなしつつ、長い目でみればきっと何とかなると、自分を安心させている。
●日常使う営業ツール.......... 向さんが“営業ツール”として活用しているのは、ビジネス書だ。向さんは本を読むのが好きで、ビジネス書からネタを拾って、お客様との話題づくりに生かしている。「幅広い分野に興味があるので、テーマは絞らない。強いていえば、IT系の本はあまり読まずに、専門外のジャンルの本を選ぶ」そうだ。
●上司からのひと言.......... 「新卒者の採用面接が向君との最初の出会いだった。『農業とITを融合させたい』と、目を輝かせて訴えていた印象が、今でも強く残っている。彼が高実績を上げているのは、営業パーソンの基本である『明るさ』『元気』『誠意』の三つをもち合わせているからだと思う。これからも、周囲の仲間たちの刺激になるよう、ますます成長し、活躍してくれることを期待している」(公共システム事業部営業部の波多野剛部長代行)