日本マイクロソフト(樋口泰行社長)は、今年度(2013年6月期)、多くの主力製品の新バージョンを発売している。日本マイクロソフトは、先進5か国の現地法人のなかで一昨年度と昨年度、2年連続でトップの好業績を上げており、好調ぶりをみせている。大型商品を複数投入して、さらにビジネスを伸ばそうとしている状況にあって、カギを握るのは、やはり「Windows」だ。クライアント端末向けOS「Windows 8」とサーバー用OS「Windows Server 2012」の拡販に対する日本マイクロソフトの強い意気込みが感じられる。
先進5か国で2年連続のNo.1
日本マイクロソフトは、今年度(2013年6月期)に入って、主力製品の新バージョンを立て続けに発売している。データベースの「SQL Server 2012」や運用管理ソフト「System Center 2012」、OSの「Windows Server 2012」と「Windows 8」の販売を開始した。2013年には、次期「Office」の発売を予定している。1年の間に、ここまで矢継ぎ早に主力製品の新バージョンをリリースするのは極めて異例。サーバー用とクライアント端末用の最新版OSを同じ年に発売するケースも珍しい。それだけに、日本マイクロソフトの今年度に懸ける思いは強い。樋口社長は、「『Windows 8』のプロモーションには、インターネットの普及に貢献した大ヒットOS『Windows 95』よりも多くの広告費用を投じる」と話し、意気込みを示している。
日本マイクロソフトは、他の外資系企業と同様に業績は明らかにしないが、好業績が続いていることは間違いない。樋口社長が最近公の場で挨拶する際に決まって口にするのが、「日本マイクロソフトは他の国の現地法人よりも高い評価を受けている」ということだ。「日本マイクロソフトは先進5か国(日本、ドイツ、イギリス、フランス、カナダ)のなかで、4年前は最下位だったが、一昨年度と昨年度は最も優秀な国として米本社に表彰された」。停滞感が漂う日本のIT市場だが、そのなかでも日本マイクロソフトは他の先進国を抑えてトップの座に就いているわけだ。
好業績が続くなかで、複数の大型商品を武器にしてビジネス拡大を図り、3年連続のNo.1獲得を目指している。

日本マイクロソフトは、昨年度、先進5か国のなかで一番の好業績をあげた子会社として米本社に表彰された。左から2番目が樋口社長。左は米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEO(写真提供:日本マイクロソフト)WindowsとOfficeは特別な存在
日本マイクロソフトは、今年度第1四半期に大規模な自社イベントを二つ開催している。同社製品を販売するパートナー向けの「マイクロソフト ジャパン パートナー コンファレンス(JPC) 2012」を9月上旬に開き、同月下旬にはユーザー企業とパートナーを集めた「The Microsoft Conference(MSC) 2012」を開催した。とくに「MSC」では、日本マイクロソフトの幹部が戦略を説明するほか、各プロダクト担当者が新製品の詳細を披露し、パートナーのソリューションが展示される。年間最大のイベントだけに、日本マイクロソフトが力を入れる分野や製品・サービスを把握しやすい内容になっている。
MSCは、毎回、ユーザー企業の情報システム担当者や、パートナー企業の技術者・マーケティング担当者などが集まる。12回目を迎えた今回は、例年以上の人気で、「8300人もの参加申し込みがあって、予定より早く応募を締め切らせていただいた」(樋口社長)と盛況ぶりに満足げな表情。樋口社長は、基調講演で「今、日本の企業は“非活性化”している。成功体験にあぐらをかいている印象がある。日本は心地のいい国になりすぎて、会社のなかも心地よくなってしまっている。あえて心地の悪い状況をつくり出して、チャレンジ・アクションを起こさなければならない」と自身が感じている閉塞感を口にした。そのうえで、「新時代を切り拓く主軸」として「Windows 8」と「Windows Server 2012」、次期版「Office」を紹介して「みなさんのビジネスに役立ててほしい」と語った。これら三つの新製品が特別なものであることを印象づけた。

「MSC 2012」の会場風景。およそ8300人の参加申込みがあった
「MSC 2012」で基調講演する樋口泰行社長
パートナーのソリューションを展示する会場にも多くの人が詰めかけたクラウドに最適化した新サーバーOS
「MSC 2012」の基調講演では、日本マイクロソフトの幹部と、米本社から来日したキーパーソンもステージに立った。そのなかで、幹部らが強くアピールしたのが、「Windows Server 2012」だ。
米本社の沼本健・サーバー&ツールマーケティンググループコーポレートバイスプレジデントは、トレンドとして「クラウド」「コンシューマライゼーションIT」「データの爆発的増大」「ソーシャル(ネットワークサービス)の広がり」の4点を列挙。そのうえで、「サーバーを取り巻く環境は変化した。『Windows Server 2012』は、データセンターを丸ごと一つのサーバーのように見立てて、アプリケーションソフトを自由に導入・展開することができる」ことを紹介した。
日本マイクロソフトからは、サーバープラットフォームビジネス本部の梅田成二・業務執行役員本部長が登場し、「Windows Server 2012」の新技術・機能をデモンストレーションを交えながら説明した。梅田業務執行役員本部長は、過去のサーバーOSに比べて品質の高さに自信をもっており、「投入してからユーザーが本格的に新OSに移行するまでに2~3年はかかるが、『Windows Server 2012』はそれよりも短い時間で普及するだろう。目標は、今後1年の間に、最も国内で利用されているサーバーOSにすること」と語り、意欲を示した。

米本社の沼本健コーポレートバイスプレジデント
日本マイクロソフトの梅田成二業務執行役員米本社の幹部に聞く今年度の戦略
SMB担当のトロシアン バイスプレジデント

米本社のバヘ・トロシアンコーポレート
バイスプレジデント ──全世界の中堅・中小企業(SMB)に対するビジネスは好調か。トロシアン クラウド関連のサービスが伸びており、全体で前年に比べて2倍に成長している。「Office 365」や「Dynamics CRM Online」がとくに好調だ。パートナーがクラウドを再販する体制が整ってきたことが貢献している。日本でも、パートナーがクラウドを再販する体制が徐々に整ってきた。
──とくに注目している国はどこか。トロシアン 米国とイギリス、フランスだ。イギリスとフランスはチャネル体制をうまく整備しているので、今後の成長に期待している。
──日本の成長性をどのようにみているか。トロシアン 日本は世界第2位のマーケット規模があるとみている。非常に重要な国だという認識は変わらない。
──今年度、力を入れて販売する製品・サービスを三つ挙げるとしたら何か。トロシアン 一つは「Windows 8」。日本を含めて全世界で、「Windows XP」などの古いOSを利用している企業はたくさん存在する。最新OSを搭載したパソコンへの買い替えの促進は、大きなミッションだ。二つ目がパブリッククラウド系サービスで、「Office 365」と「Dynamics CRM Online」、そしてパソコン管理とセキュリティ機能の「Windows Intune」。パブリッククラウドは、従量課金制で導入することができ、SMBに適している。これまでも順調なだけに、力を入れないわけにはいかない。3番目が「Windows Server 2012」。SMBのなかでも、中堅規模のユーザー企業のプライベートクラウドに適したプラットフォームとして積極的に提案する。システム管理ツール「System Center 2012」と組み合わせたソリューションとして受け入れられると感じている。
──マイクロソフトは今年度、主力製品の新バージョンを複数販売する。マーケティング活動にも例年以上に強化すると思うが、投資額は増えるのか。トロシアン 今年度はマーケティングやパートナーの育成などで、4.2ビリオンドル(約3360億円)の費用を投じて需要を喚起する。SMB向けビジネスを伸ばすためにチャネル(パートナー)の力は非常に重要だ。パートナーとともにビジネスを拡大していくことに力を入れる。