日本IBM(マーティン・イェッター社長)は、ハードウェアやソフトウェアを組み合わせる垂直統合型アーキテクチャ「IBM PureSystems」の本格展開に拍車をかけている。近々、PureSystems向けアプリケーション利用に必要な環境を、従来のプライベートクラウド型だけでなくパブリッククラウド型としても提供する。パブリック、つまりサービス型での提供によって導入のハードルを低くして、PureSystems市場の拡大を目指している。日本IBMのこうした取り組みは、PureSystems向けアプリケーション開発を手がけるベンダーにも少なからぬ影響を与える。PureSystemsのユーザー企業が増えれば増えるほど、PureSystems向けのアプリケーションを利用する企業も多くなるからだ。(ゼンフ ミシャ)

日本IBMソフトウェア事業担当の
ヴィヴェック・マハジャン専務執行役員。
「プライベートもパブリックも意識せずに
PureSystemsを利用できるようになる」
ことを明らかにした 日本IBMでソフトウェア事業担当を務めるヴィヴェック・マハジャン専務執行役員は、本紙に対し「近いうちに、プライベートクラウド型であろうとパブリッククラウド型であろうと、意識することなくアプリケーションを利用できるようになる」とコメントした。
具体的には、日本IBMがPureSystems向けアプリケーション利用に必要な環境を、従来のプライベート型に加えて、PureSystemsをサービスとして利用できるパブリック型としても提供する、ということになる。
現状では、日本IBMはPureSystemsをプライベートクラウド環境として提供している。日本IBMのISV(独立系ソフトベンダー)パートナーは、ERPやBA(ビジネスアナリティクス)など、PureSystems上で動くアプリケーションを開発。認定パートナーのコミュニティサイト「PureSystems Centre」を通じて、ユーザー企業に提供する。そして、ユーザー企業は、PureSystemsをハードウェアとして導入し、ISVから購入したアプリケーションをPureSystems上で動かす、という構成だ。
今後は、日本IBMがPureSystemsをサービス型としても提供することによって、ユーザー企業は、PureSystemsを必ずしもハードウェアとして導入する必要がなくなる。
マハジャン専務執行役員は、「ユーザー企業にPureSystemsをパブリッククラウドで提供することは、当社と販売パートナーの両方が行う。近々、提供を開始することを予定している」と述べる。ユーザー企業は、今後PureSystemsをプライベート型だけでなく、パブリック型としても導入できるということは、日本IBMにとどまらず、アプリケーション開発を手がけるパートナーにとっても、大きなビジネスチャンスにつながりそうだ。
PureSystemsは、サーバーからOS/ミドルウェアまでのあらゆるIT製品を盛り込む垂直統合型アーキテクチャを採用しているので、ハードウェアを購入しての導入コストは高価にならざるを得ない。そのため、PureSystemsとその上で動くアプリケーションを利用するターゲット市場は、IT予算に余裕のある大手企業を中心に、ごく一部のユーザーに限られているのが実際のところだ。
しかしこれから先、PureSystemsをサービスとして利用できるようになれば、導入のハードルが下がり、PureSystemsを採用することができるユーザー企業が増加するだろう。それとともに、当然ながら、ISVがPureSystems向けに開発しているアプリケーションのユーザー企業も増えることになる。つまり、日本IBMとISVの両方にとって、商機が生まれるわけだ。
日本IBMのこうした取り組みの背景には、「Exaシリーズ」で垂直統合型システムを展開するオラクルの動きがある。
オラクルは、9月30日から10月4日まで米サンフランシスコで開催したプライベートイベント「Oracle OpenWorld」のパートナー向けセッションで、Exa上で動くビジネスアプリケーション製品群「Oracle Fusion Applications」向けのIaaS/PaaS環境を提供することを明言した。パブリックとプライベートの両方のクラウド・サービス環境を構築できるパートナーを、オラクルの開発者やコンサルティング担当者が支援して認定する制度を立ち上げて、Exaシリーズの事業拡大を目指す。
日本IBMは、(米国本社が)4年間をかけて研究開発や企業買収に約20億ドルを投資し、PureSystemsを実現したとアピールしている。裏を返せば、投資を回収するために、PureSystems事業の相当の規模に成長させなければならない、ということになる。今回、パブリッククラウド型での提供を開始して、PureSystemsを本格的に普及させようとしている。
表層深層
垂直統合型システムの展開については、IBMやオラクルなどの外資系ベンダーだけではなく、国内大手ベンダーも取り組んでいる。富士通は2011年に「Cloud Ready Blocks」を投入している。NECと日立製作所はそれぞれ、垂直統合型製品の開発を推進しており、近いうちに発売するという。
このように、相次いで新製品が登場する状況にあって、垂直統合型システムの展開について、ベンダー間の競争はおのずと激しくならざるを得ない。
今回、垂直統合型システムのパイオニアともいえるIBMとオラクルが、アプリケーションの利用環境をサービス型で提供することによって、このビジネスが新しいステージに入ることになる。従来は垂直統合型システムの導入コストが高価であることがネックになって、ターゲットとする市場が限られていた。しかし、今後はより多くの企業が垂直統合型システムを利用できるようになり、普及が本格的に進む可能性がある。
ITリソースをハードウェアとしてではなく、サービスとして提供することは、まさに、IBMをはじめとする大手ITベンダーが提唱する動きだ。その意味で、今回、「PureSystems」についてもサービス型で提供する日本IBMの取り組みには、一貫性がある。今後、垂直統合型製品を展開する国内ベンダーも、競争を勝ち抜くために、サービス型での提供を検討することを迫られるだろう。