米国に本社を置くロードバランサ(負荷分散装置)メーカーであるA10ネットワークス(小枝逸人社長)は、日本法人がグローバル事業を統括するというユニークなビジネスモデルの強化に取り組んでいる。小枝逸人社長は、今年の8月1日付で、2011年から統括している南アジア(South APAC)に加え、これまで米国本社が指揮を執ってきた台湾でも、A10のビジネスを率いるようになった。チャネルパートナーを重視する日本流の販売モデルを移植し、パートナー支援プログラムを見直すなどの施策を講じることによって、台湾での事業拡大を図る。

小枝逸人社長 A10ネットワークスは、8月1日に台湾ビジネスの統括を米国本社から引き継いだ。これによって、日本法人は、日本と、インドやシンガポールを中心とする南アジアの地域に加えて、データセンター(DC)の増設によってロードバランサの需要が高まっている有望市場である台湾でも、A10のビジネスを統括する体制を整えた。
同社は直近の動きとして、台湾で既存の販売パートナーとの関係強化や、新しいチャネルパートナーの獲得を目的に、9月、台湾現地のマーケティングチームを日本法人(Japan & South APAC)に統合した。パートナー支援/獲得に携わるチームを3名増強し、台湾市場向けマーケティング体制を強化している。さらに、台湾でのビジネス開発や受発注、サポートなどの機能もJapan & South APACと統合し、数週間をかけて、日本法人が台湾のビジネスを全面的にリードするための基盤を築いてきた。
小枝社長は、「今後、台湾でディストリビュータ(1次販売店)とリセラー(2次販売店)から成る日本と同様の販売形態を強化する。また、パートナーの利益を拡大するために、近々、パートナープログラムの見直しに着手する」と、チャネルパートナーを柱とする“日本モデル”を台湾に横展開する戦略を語る。
A10ネットワークスは、このところ日本国内でのビジネスを急速に伸ばしている。調査会社のIDC Japanがこの9月に公開したデータによると、2011年の国内ロードバランサ市場(売上規模=238億円)で、A10ネットワークスは初めて売上額で2位にランクインし、首位のF5ネットワークスジャパンとの距離を縮めているようだ。A10の米国本社は、日本法人が日本国内のみならず、南アジアでも高い成長率を確保していることを受けて、今回、台湾ビジネスを小枝社長に任せることを決めた。これから、台湾でも日本/南アジアと同じ勢いでシェアを伸ばし、DC事業者やサービスプロバイダを中核とする台湾のロードバランサ市場の開拓を目指していく構えだ。
A10のように、IT機器メーカーの米国本社が日本法人にグローバル展開の責任を任せるのは、極めて異例だ。A10の米国本社は、日本法人が単に地理的に南アジア/台湾に近いからではなく、日本で確実な事業拡大を果たし、日本流の販売モデルが成功しているからこそ、南アジア/台湾ビジネスの統括を日本に移管していると考えられる。小枝社長が指揮を執るかたちで、地場に根づいた販売網の構築と技術サポートをはじめとするパートナー支援をキーワードに掲げる“日本モデル”を着々と横展開することによって、グローバル市場で勝負しようとしているわけだ。
小枝社長は、「A10は米国が本社の会社だが、日本法人が常にワールドワイドをリードするという意識で業務をこなしている」と述べる。実績を伸ばしつつ、日本流の販売形態に自信をもって、“日本モデル”を武器に世界で戦うという意味で、A10は他のIT機器メーカーのロールモデルになる可能性がある。(ゼンフ ミシャ)