売れるにはワケがある──。今号から連載を開始するこのコーナーでは、第一線で好成績を上げる若手営業担当者に登場してもらい、これまでのキャリアを追いつつ「素顔と横顔」に迫って、成功する営業の秘訣を探る。連載の第一回は、有力SIerの日立システムズで製造業向けERPパッケージの営業を手がけ、新規顧客の開拓によって着実に実績を伸ばしている高田英明さん(30歳)を紹介する。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/大星直輝)
[語る人]
●profile..........高田 英明(たかだ ひであき)
2005年、早稲田大学商学部を卒業後、日立情報システムズ(現日立システムズ)に入社し、産業関連の企業を客先とする部署に営業として配属となる。部署の統廃合による組織名称などの変更はあったが、基本的に現在まで同じ部署で営業を担当している。担当業務は、配属後は日立グループや日立製品を扱う特約店などの顧客と新規開拓営業を担当。その後、2009年に医療機器製造業、2011年に一般機械製造業と担当が変更となり、現在は製造業向けERPパッケージを専門に販売している。
●会社概要.......... 日立グループのシステムインテグレータ。2011年10月、日立電子サービスと日立情報システムズが合併し、設立。連結従業員数は1万5042人(2012年3月31日現在)。東京・品川区に本社を構える。
●所属..........産業・流通営業統括本部
第三営業本部
第四営業部 第一グループ
主任
●営業実績.......... 製品の拡販に工夫・努力し、顕著な実績を上げた社員を讃える日立システムズの表彰制度で、2006年、2010年、2011年と三度にわたって表彰を受けた。
●仕事.......... 多言語対応の製造業向けERPパッケージ「Infor10 ERP Business(SyteLine)」の専属営業として、一人でこの商材のセールスを担当する。「SyteLine」を活用すればビジネスのグローバル対応ができることを訴求ポイントとして、客先の情報システム部門への提案活動に励んでいる。新規顧客の開拓を使命としており、1日に最低2社の企業と商談する。
生来、口べたで、人前で話すのが苦手だ。おまけに下戸。酒が飲めないので、お客様とのおつき合いでハンデがある。そんな私が配属されたのが、よりによって営業部門とは……。どこをどう見込まれたのか、いちばん苦手と思っていた部署で仕事に就くことになり、不安でいっぱいの社会人スタートだった。そんな私だが、夢中で営業の仕事をこなすうちに7年が経過し、会社から一定の評価を受けることになったのは、不思議な感じがする。
大学では商学部に籍を置き、主に保険分野を学んだ。就職活動にあたって、保険のように「形のないもの」を扱ってみたいと思っていた。だが結局は、父がシステム構築業界の会社で働いていることもあって、日立システムズに入社することにした。
配属先は、新規顧客を開拓する活動をメインとする部署だった。新人は、まず電話によるアポ取りや上司に同行しての飛び込み営業からスタートするので、人と積極的に話すことがあまり得意ではない私にとって、気苦労が多かった。3年目からは一人で営業活動を行うことになって、お客様と1対1でお話をする場面が増えた。そのときによく失敗したのは、言い出しづらいことをお客様に直接話すのではなく、後でメールで伝える、というやり方をとったことだ。「なんで直接言ってくれなかったのか」と、何度も叱られた。要するに、逃げ腰だったのを見透かされたわけで、こうした失敗を通じて、営業という仕事にとって、人と人との直接のコミュニケーションがいかに大切であるかを理解することができた。
ターニングポイントは、営業に出て4年目。この頃になると、任される仕事が多くなり、責任が重くなった。その一方で、あせりもあった。お客様への提案を粘り強く行い、どんどん注文をとってくる上司に比べて、「自分の営業スタイルはあっさりしすぎている」と自覚していた私は、そもそも営業に向いていないのではないかと落ち込むようになった。そんな折に、本屋で立ち読みした本に貴重なヒントをみつけた。「営業は、ガンガンいくタイプではなくても成功する」という趣旨のことが書いてあったのだ。
「これだ!」と思った。私はそれまで、苦手なのに、営業はとにかくたくさんしゃべらないといけないと思い込んでいた。これ以後、自分からは一方的にしゃべらずに、お客様の話を一生懸命に聞くことを心がけてきた。そうすると、相手の考え方や要望が以前よりもずっと深く理解できるようになった。そのことが、お客様からの信頼を得ることにつながったのだ。(つづく)