マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Office 365」の新たな再販プログラム「Microsoft Office 365 Open」。「Office 365」を再販するパートナーには賛否両論がある。新制度へのパートナーの見解を紹介する短期連載の第3回は、とまどいの声を拾った。(木村剛士)
歓迎の声の一方でとまどうパートナーが存在
本連載では、第1回に
「Office 365」の特徴とクラウドに対するマイクロソフトの意気込みを紹介し、前回は
「Microsoft Office 365 Open」を「ビジネスの幅が広がる」と歓迎するパートナーの声をまとめた。
「Office 365」を再販するITベンダー向けの新再販プログラム「Office 365 Open」。現在の再販制度は、販社が「Office 365」をユーザー企業に販売した場合、販社はその販売額に応じて営業代行料をマイクロソフトから得る仕組みだが、「Office 365 Open」では、パートナーが通常のソフトライセンスのように、マイクロソフトからサービスを調達して、自社で料金を請求・徴収することができる。自社の付加価値を加えたかたちでの販売が可能になる。
第2回で詳説したが、現行制度に対しては、「多くのパートナーが不満を口にしていた」(パートナーソリューション営業統括本部統括本部長兼パートナー戦略統括本部統括本部長の佐藤恭平業務執行役員)という。「Office 365 Open」は、マイクロソフトがこの不満を解消するために用意したプログラムで、パートナーにとっては渡りに舟。複数のパートナーが歓迎する言葉を口にしている。
しかし、すべてのパートナーが、現時点で新制度に賛成しているわけではない。不満とはいわないまでも、とまどいを感じているパートナーは確実にいる。
シンジケーションパートナーのメリットは小さくなる?
「Office 365 Open」のパートナーは国内に約1200社存在するが、パートナーはすべて同じ条件で再販しているわけではない。現行制度下でも、前述した営業代行モデルではなく、ユーザー企業と直接契約を結んで「Office 365」を販売し、料金の請求・徴収を自社で行っているる特別なパートナーがいる。それが「シンジケーションパートナー」に位置づけられるITベンダーで、日本ではNTTコミュニケーションズと大塚商会、リコージャパンの3社がいる。
この3社は、「Office 365」を自社のオリジナルブランド名に変えて、他のサービスと組み合わせて販売することもできる。実際に大塚商会は、「たよれーる Office 365」というサービス名で販売しているし、リコージャパンは、クラウドの総合ブランド「リコーワンストップくらうど」のメニューの一つ「クラウドサービス for Office365」の名称で「Office 365」を販売している。
「Office 365 Open」がスタートすれば、この3社の特権的メリットが小さくなる可能性は高い。大塚商会の田中修主席執行役員LA事業部事業部長は、とまどいを口にする。
「Office 365 Open」が発表された直後、田中主席執行役員は「日本での展開時期など、概要が全くみえないので、何ともいえない」と前置きしたうえで、「われわれのようなシンジケーションパートナーのメリットが小さくなる可能性はある」と話した。
また、マーケティング本部の下條洋永MSソリューショングループ課長は「『Microsoft Office 365』が始まっても、現行の再販制度は残すと聞いている。そうなると、再販方法が多様化してわかりにくい」と疑問を呈した。
大塚商会は、その国で最もマイクロソフトのビジネスに最も貢献したパートナーに与えられる「Country Partner of the Year」を受賞しているが、田中主席執行役員は「われわれは、マイクロソフト製品を売るためにかなりの努力を重ね、実績も上げているつもりだ。ただ、それに見合うだけの支援を受けていないように感じている」と、「Office 365 Open」だけでなく、マイクロソフトの支援内容自体に不満を感じている様子だ。
リコージャパンは、「正直にいえば『Office 365』の販売には予想以上に苦労している。(新制度が始まって)多くのパートナーが積極的に提案し、ユーザー企業に広く知ってもらって市場が拡大するきっかけになればいいが……」(広報部)と含みをもたせた。
日本マイクソフトのある幹部は、「Office 365 Open」の発表に関して「いろいろな声がある」とコメント。すでに批判的な声が耳に届いているそぶりだった。7月上旬発表の「Office 365 Open」は、国内での開始時期や細かな内容などはまだ明らかになっていない。その意味では、まだ大きな影響が出ているわけではない。
複数のパートナーが歓迎ムードであることを考えれば、販売量の増加につながる起爆材になる可能性もある。しかし、有力販社の機嫌を損なう可能性があるのも事実。いずれにしても、世界最大手の戦略的クラウドの売れ行きに、影響を与える制度であることは間違いない。9月7日には、日本最大のパートナーイベント「マイクロソフト ジャパン パートナー コンファレンス 2012」が開催される。この場で、具体的計画を日本マイクロソフトが発表することを期待したい。(終わり)