港北出版印刷(三浦彰久社長)は、電子ブックサービスのシステム基盤としてKDDIウェブコミュニケーションズ(山瀬明宏社長)のフルマネージド専用サーバーサービスを採用した。印刷需要が伸び悩むなか、港北出版印刷は勝ち残りをかけて電子ブックサービスをスタート。しかし、単独の印刷会社ではシステム運用に関する専門的なノウハウが不十分なことから、ホスティングやクラウドサービスを専門に手がけるKDDIウェブのインフラを活用することに決めた。
港北出版印刷
会社概要:港北出版印刷は1945年10月創業の老舗印刷会社。カタログや手引書などの商業印刷、帳票などビジネスフォーム、学術専門書の印刷・出版に強みをもつ。本社は東京・渋谷区で社員数は約300人、年商80億円。
サービス提供会社:KDDIウェブコミュニケーションズ
サービス名:フルマネージド専用サーバーサービス
港北出版印刷の電子ブックサービスの概要
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KDDIウェブ 事業推進本部CPI営業部 佐竹恭輔氏 |
港北出版印刷は、ITの進展によるペーパレス化の流れのなかで、「紙の印刷だけに頼っていてはダメだ」(沼尾義雄・デジタルコンテンツ部長)と判断。そこで手がけたのが、自らが率先してペーパレス化をリードする電子ブックサービスだった。同社は、カタログや手引書、帳票などの商業印刷や学術専門書の印刷・出版に強い老舗印刷会社で、まずは商業印刷の分野で電子ブックの提案を活発に行ったところ、2010年、金融系大手ユーザーからの受注に成功した。
電子ブックはこれまで印刷物として受注し、印刷していたものを電子化し、まるで本のページをめくるように閲覧できるシステムのことだ。ページをめくる動作を採り入れたことでITに慣れていない人でも操作がしやすく、インターフェース(IF)を工夫することでPDFよりも見やすくした。検索に非常に強力な機能を搭載することで、業務用途に耐え得る高規格仕様にしたのが特徴だ。ただ、これだけのシステムを運用するノウハウを、印刷会社が単独で十分に備えているわけはなく、たどり着いたのがKDDIウェブの専用サーバーサービスだった。
港北出版印刷の要望を聞いたKDDIウェブは、今後拡張が見込まれるシステムであるとともに、停止することが許されない業務用途であることを考慮し、「拡張性が高く、運用をすべてKDDIウェブに任せてもらえるフルマネージド専用サーバーを提案した」(事業推進本部CPI営業部の佐竹恭輔氏)という。
フルマネージド専用サーバーを選んだ理由について港北出版印刷は、仮にハードウェアを購入して、今回の受注先である金融系大手ユーザー先に客先設置(オンプレミス)してしまうと、システムやサービスの主導権をユーザーに渡してしまう“売り切り型”になってしまいかねない。港北出版印刷の金丸康明・デジタルコンテンツ部制作1課長は、「一過性のビジネスにはしたくなかった」という思惑があって、あくまでもサービス提供の主体を担うポジションを求めた。この狙い通り、「金融系大手ユーザーから発注された印刷を請け負う業者はたくさんあるが、電子ブックサービスを手がけているのは当社だけという状況を作り出せた」と成果を語る。顧客との接点が多くなることで、本来は他社に発注されていた印刷物の受注が増える結果となったのだ。
電子ブックの開発にあたっては、ソフト開発のコトブキ企画(大阪市、松井博司社長)のデジタルブック作成システムを採用した。とはいえ、電子ブックは基本的にすべての人に公開することが前提でつくられているが、先の金融系大手ユーザーの業務用途では、同じドキュメントでも、ユーザー社内の閲覧と販売代理店が閲覧できる範囲は自ずと異なり、後者は原価表などは伏せた限定的なものにならざるを得ない。「ここの閲覧制御の開発が最も苦労した点で、コトブキ企画と二人三脚で改良を重ねた」(同)。今では金融系ユーザーだけではなく、医療系に強い学術出版社などさまざまなユーザーから受注や引き合いが来る人気サービスに成長している。(安藤章司)

港北出版印刷の沼尾義雄部長(左)と、金丸康明課長
3つのpoint
・サービス提供型にすることでビジネスの主導権を確保
・本来ビジネスの一つである印刷需要の取り込みにも効果
・電子ブックの核心部分以外はすべてアウトソーシング