IT関連商社のミツイワ(飯田裕一社長)は、東日本大震災で大きなダメージを受けた地域の復興支援活動の一環として、三重県水産協議会が立ち上げた「中古漁船輸送(絆)プロジェクト」に参画している。今回は中古漁船3隻と、電動船2隻を、宮城県石巻市雄勝漁協の漁師が設立した合同会社「OHガッツ」に提供した。電動船はミツイワが目指す「スマート漁港」の中核を担うものだ。同社は雄勝をモデル地区として、過疎化する漁港の再生に乗り出そうとしている。9月17日、「OHガッツ」が主催するイベントに際して行われた漁船搬入の様子を現地で取材した。(取材・文/鍋島蓉子)

津波に押し流されて、公民館の屋上に打ち上げられたままの大型バス
力強く立ち上がる雄勝町
9月17日(土)の朝、仙台駅のロータリーで、ミツイワの羅本礼二常務、同社新規プロジェクト本部ネットビジネス営業部の小田嶋俊和氏と、愛媛に本拠を置いて電動船開発と小型船舶の電動換装化技術を有するアイティオーの原山徹夫取締役東京支店長の3人と合流。クルマに同乗させてもらって、現地へ向かった。
現地までの所要時間はおよそ2時間。北上川沿いを雄勝に向けて走っていくと、突然、崩落した橋や廃屋、瓦礫の山が姿を現した。東日本大震災から半年、撤去作業は徐々に進められているとはいえ、ここで何が起きたかを示すには十分なほどの悲惨な光景が広がっている。雄勝町に着くと、公民館の屋上に乗っかったままの大型バスが目に飛び込んできた。雄勝湾付近は津波で建物が流され、土台だけを残っている家が多かった。雄勝漁港の桟橋も海に沈んで消失同然だったが、その傍らの波打ち際にカキの稚貝が吊るされていた。
「OHガッツ」は、この沈みかけている桟橋を「OHガッツ桟橋」と名づけて、養殖オーナー(=全国の支援者)自らが海産物の育成に参加する「そだての住人 牡蠣」イベントの舞台とした。「OHガッツ」は雄勝町の漁業を再生するために設立された合同会社。会社の名前は雄勝町(おがつちょう)をもじってつけたものだ。

桟橋の波打ち際に息づくカキの稚貝
ITでスマートな漁港を
翌9月18日に控えたイベントに向けて、羅本常務がオブザーバーとして参加している「中古漁船輸送(絆)プロジェクト」から中古漁船3隻の提供されたほか、そのプロジェクトに賛同したアイティオーの電動船1隻、ミツイワがモニター船として提供を受けている電動船1隻の無償貸与が行われた。
電動船はその名の通り、電気を動力源とする船舶だ。アイティオーは水産庁の補助事業として長崎県対馬、愛媛県宇和島市で、電動船外機船の省エネ実証試験を実施した。船外機を電気モーター、電池・コントローラに換装することで、ガソリン船外機船と比べて、燃費を80%前後削減できる試験結果を得た。また、「従来の船はガソリンが動力源で、独特の臭いが船酔いの原因の一つにもなっている」(アイティオーの原山取締役)とのことで、電動船なら船が苦手な人の苦痛も軽減されそうだ。

トラックで運ばれてきた電動船と漁船
正午頃、伊勢有滝漁港と三重県宇和島を16日の朝に出発していた中古漁船、電動船が雄勝漁港に到着した。クレーン到着後、アイティオーの社員とOHガッツのメンバーが力を合わせて中古漁船の船外機取り付け作業にかかり、午後3時頃に終了。電動船にはすでに船外機がついている状態だったので、それをクレーンで海に運んで試走した。モーター音が非常に静かで、滑るように加速する電動船。「速い!」「音が静かだ」と感嘆の声が上がる。
雄勝に向かう道すがら、羅本常務は「三重と、この雄勝を、スマート漁港にしたいんです」と話してくれた。ミツイワは、9月14日、電動船の普及を促進するために、アイティオーと業務提携を結んだ。スマート漁港づくりを目指して、漁業関係団体や自治体、電機メーカー、電力会社などとのコンソーシアムの結成を計画。その活動の中核となる小規模漁港の活性化のモデル地区に、宮城県石巻市雄勝漁港、三重県南伊勢町神前浦を選定した。

電動船は海面を滑るように進む
折しも、仙台市、日本IBM、カゴメなどが中心となり、太陽光発電による水耕栽培・食品加工事業の検討を開始したと報道された。ミツイワは、これまでにも大阪の水産物卸会社・旬材とともに水産物の新しい流通システム構築に力を入れてきた。
なお、9月18日のイベントにはマスコミを含めておよそ200人が訪れ、参加者による稚貝の投入が滞りなく進められたとの情報が入った。
東北の第1次産業の従事者が日本の農業、水産業を支えている。甚大な被害を被った東北地区だが、未曾有の大災害を機に、ITテクノロジーの力で「スマート」に生まれ変わろうとしている。