【台北発】台湾のEMS(電子機器の受託生産)メーカーは世界的に有名だ。だが、これ以外に世界で活躍するOEM/ODM(相手先ブランドによる提供/設計からの製品開発)メーカーとNASなどを開発・製造するメーカーを知っている日本のIT関係者は少ない。「COMPUTEX TAIPEI」が開催された6月、台湾のハードウェアメーカーを訪問して、日本市場への期待などを聞いた。(取材・文/谷畑良胤)
台湾ハードメーカー其の一
Lanner(立端科技股・有限公司)
世界のアプライアンスはここで製造
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| 張彝懋(ジャッキー・チャン)氏は「1台からOEM/ODMの委託を受ける」と意欲的 |
世界のメーカーを相手にアプライアンス機器を設計・製造しているOEM/ODMメーカーでは、最大規模を誇るのが台湾の汐止市にあるLanner(立端科技股・有限公司)だ。1986年に産業用機器の製造メーカーとして設立。年商が60億円程度で、女性社長が実権を握っているベンダーとして台湾内では知られた存在だ。専門機器の設計・製造を長年手がけてきた経験とノウハウを生かし、2006年からアプライアンス機器などの受託事業を展開。世界で販売されているセキュリティ・アプライアンス製品は、ほとんどが同社が開発したきょう体にセキュリティメーカーのソフトウェアを組み込んでつくった製品だ。
同社は、ネットワーク・セキュリティ、ストレージ、ビデオオーバーIPを含むネットワーク・コミュニケーション関連の機器の設計・製造を一手に引き受けている。台北と中国の北京に工場をもち、ハードウェアレベルからBIOS/ブートコード、ドライバ、API、ミドルウェア、OS、世界のメーカーが提供するアプリケーションまで、統合的で幅広い機器を視野に入れている。セキュリティメーカーなどがアプライアンス製品を開発する際、同社に委託すれば、同社が提供する汎用的なハードウェア基盤をカスタマイズし、マザーボードやチップセットの配置・設計からソフトウェアの組み込み、その後の負荷テストを経て製品化し出荷するまで、メーカーの要望に応じ一貫して請け負ってくれる。世界メーカー戦略を担当する張彝懋(ジャッキー・チャン)氏によれば「1台からでも委託を受ける。自社で開発せず当社に委託すれば、開発コストを大幅に削減できる」と、日本のハードメーカーにもラブコールを送る。

世界のメーカーから委託を受けた製品は、厳重な品質管理体制の工場で製造される。記者が訪問した日は、数社の日系メーカーも訪れていた
(写真は台湾の汐止市の工場)
台湾ハードメーカー其の二
FLYTECH TECHNOLOGY(飛捷科技股・有限公司)
マクドナルドのPOS端末はFLYTECH製
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| 事業戦略の詳細を語る李東陵・副総経理 |
世界のマクドナルドで使われているPOS端末は、すべてここが開発・製造した──台湾の台北市に本社を置くFLYTECH TECHNOLOGY(飛捷科技・有限公司)は、世界市場に多くのPOS端末、KIOSK端末、パネルPC製品を提供している。日本を除くマクドナルドでは、同社が委託を受けて開発したPOS端末が使われているのだ。台数シェアでは台湾でトップ、世界で5位。昨年12月には台北市に新たな工場を完成させ、生産台数を3~5倍に伸ばしている。
同社は欧米をメイン市場としており、この市場での売上高は全体の8割を占めている。日本市場に関しては、POS端末メーカーの国内大手に阻まれ、シェアが小さい。近く、大手商社と提携し、POS端末メーカー向けのOEM/ODM供給を開始する計画だ。同社は、インテルのチップセットを専業で取り扱うメーカーで、提携会社の要望に応じた小ロット生産も可能だ。
同社の李東陵・副総経理は、「マザーボードなど内蔵物やきょう体を含めて、自社製品で自社設計している。品質とスピードの要求が厳しくなるなかで、自社ですべてを賄わなければ対応できない」と話す。部品の手配から設計・製造・負荷テスト、検証・試験、出荷時の箱詰めまですべてを一貫して行う世界でもまれなメーカーだ。劉久超・総経理は「最も重要な市場は欧米で、次いで中国市場への拡大を期待している。日本では商社を介してマーケットデータの収集を開始した」と、生産工場の拡充によって、進出国の拡大を狙っている。

本社1階のショールームで撮影に応じる劉久超・総経理
台湾ハードメーカー其の三
QNAP Systems(威聯通科技股・有限公司)
卓上型では世界2位のNASメーカー
台湾の汐止市にあるネットワーク機器メーカーのQNAP Systems(威聯通科技股・有限公司)は、2004年の設立。当初から、「世界に通用するNAS(Network Attached Storage)やプロ仕様のNVR(Network Video Recorder)ビデオ監視、ネットワークビデオプレーヤー」を目指していた。現在、中小規模の企業に提供するデスクトップ型のNAS市場では、2010年に日本のバッファローに次ぐ世界2位にまで急成長している。張明智・総経理は、「EMCやネットアップに負けない製品を提供することができていると自負している」とアピールする。
同社のNAS製品は、1/2/4-Bayの家庭用としても利用できるデスクトップ型の製品をラインアップしている。Diego Perissinotto・国外業務専員は「最近出したのは、2Bayの『TS-219P+』で、ハードディスクドライブ(HDD)2台装填でき、省エネ性能にすぐれている製品だ。この製品を軸に日本市場も攻略したい」と意欲をみせる。
最近では、クラウド環境での利用が増えていることから、「企業用のストレージ・クラウド用製品として当社製品を売り込む。他社の2TB~4TBのNASは高価な製品が多く、中小規模の企業では負担が大きいが、当社の製品は安価で性能も優れている」(商品経理の李曜ソウ氏)と、時流に乗った展開を強化していくという。

QNAPのDiego Perissinotto・国外業務専員(左)と張明智・総経理