弥生(岡本浩一郎社長)のSaaS開始に向けた取り組みが明らかになったのは2009年。これまで、マイクロソフトのクラウドサービス基盤「Windows Azure」上で「弥生オンライン」を開発してきた。いまだ提供方法などについては明らかになっていないが、すでに会計事務所向けにベータ版の提供を開始した。岡本社長は週刊BCNの取材に応じて、パッケージとは異なるSaaSビジネスの可能性について言及。まず第一弾として「初心者向けの統合型サービス」を打ち出し、自計化率の向上に挑戦しようとしている。
岡本社長は2011年中に提供を開始する「弥生オンライン」について、「既存の『弥生会計』や『弥生販売』とはまったく別物になる。業務ごとに縦割りではなく、一体のアプリケーションなので、連携を意識する必要がない。これはパッケージにはないメリットだ」と説明する。
パッケージと、SaaSの「弥生オンライン」は機能が大きく異なるという。パッケージには機能を豊富に実装する一方で、「弥生オンライン」は「機能はそこまでいらないが、できるだけ簡単に使いたいというユーザーの要望に応えるサービス」(岡本社長)にする方針だ。日報代わりに入力して、半自動的に会計事務所で仕訳ができる仕組みなどを検討しているという。パッケージとSaaSは互いにユーザーニーズを補完し合う関係になるようだ。
弥生の調査によると、従業員20人未満の企業の75%が経理業務を社内で処理しているという実態がある。「弥生オンライン」は簡単な操作を売りに、PCなどで会計処理する潜在ユーザーを発掘していく。
SaaSビジネスの展開にあたっては、他のアプリケーションとのマッシュアップを促進していく考え。「販売店と共同で新しいサービスを創造していく土台となる」(岡本社長)。
これまで同社は、家電量販店のほかにネット系販売店、会計事務所・税理士事務所、ビジネスパートナーなどを通じて業務ソフトを販売してきた。なかでも店頭販売の比率が最も高く、全国の家電量販店約1200~1300店舗で販売している。もう一つの大きな販路は会計事務所・税理士事務所だ。パートナープログラムである弥生PAPに参加する事務所は全国に約3600を数える。
「弥生オンライン」の拡販には、既存の販売店の理解が必要となってくるはずだ。ある業務ソフトメーカーの関係者は「保守的な会計事務所・税理士事務所は少なくないはず。SaaSは受け入れられるのか」と冷ややかにみている。岡本社長は、こうした意見を受けとめたうえで、「対応はそれぞれ異なるが、SaaSに対する期待はある。提供開始を催促されるくらい」と実感している。
店頭の業務ソフト市場でトップを走る弥生がSaaS提供に乗り出す意味は大きい。将来的には、「パッケージかクラウドかで区別することがなくなっていると思う。最終的には何らかの形で融合していくだろう」(岡本社長)とみる。
中小企業に大きな影響力をもつ会計事務所・税理士事務所がSaaSビジネスに本格的に参入すれば、SaaS普及が加速化していく可能性が高くなる。(信澤健太)