中国のOSS、モバイル事情に詳しい中尾貴光氏に、中国での携帯キャリアの動きや、Androidの盛り上がりについて聞いた。安徽省でOSSを中心とした開発会社「安徽開源軟件有限公司」の代表であり、Android関連の組み込みシステムの開発、構築を手がける業界団体「Open Embedded Software Foundation(OESF)」の中国での取り組みを統括している。中国では日本に先んじてAndroidを推進、GPS、セットトップボックスなどさまざまな機器で採用する動きが進んでおり、携帯キャリアもAndroidを生かしたサービス展開を推進しているという。(鍋島蓉子●取材/文)
通信キャリアはコンテンツで儲ける ──昨年6月に中国で起業されたそうですが、どのような事業を展開しているのですか。
中尾 10年間ほどOSSの業界に身を置いています。今は日系企業をメインとして、中国企業などから開発アウトソーシングの受注、トレーニングやコンサルティング事業を展開しています。OSSのなかでもとくに通称LAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP)とグーグルが開発したOSSのモバイル向けOS「Android」の二つを事業の柱としています。
──Android関連の組み込みシステムの開発、構築を手がける業界団体「Open Embedded Software Foundation(OESF)」の中国の事務局でもありますね。
中尾 今、OESFには日本を中心に米国、中国、台湾、韓国、ベトナムの企業が70社ほど参加しています。たまたまOESFの代表理事にお声がけをいただき、当社もAndroidビジネスでシナジーが期待できたので、事務局を引き受けました。
──中国では、携帯電話以外にもGPSやセットトップボックスなどへの応用がすでに始まっているそうですね。
中尾 Androidは非常に盛り上がっています。さまざまな観点があると思うのですが、通信キャリアに関していえば、モバイル端末で儲かるわけではなく、端末から自分たちが提供するSaaS/クラウドを利用してもらう必要があるわけです。
Androidを一番うまく使っているのはチャイナモバイルで、彼らはAndroidをベースにした「Ophone」OSを出しています。Androidのベース部分をそのまま利用して、ユーザーインタフェースをグーグルではなくチャイナモバイルのサービスにつながるようにしています。そうすると、自然と利用するユーザーが増えますよね。
彼らは3Gに設備投資していますから、どんどん利用者を増やして、動画配信、音楽配信を展開したいと考えています。今、中国では携帯端末が7億数千万台も普及していますが、昨年1月にやっと3Gが導入されて、まだコンテンツサービスが立ち上がっていないんですね。彼らは受け手側をAndroidにして、配信サーバーはLinuxをはじめとするOSSを採用しています。チャイナモバイルもチャイナユニコムも、地方都市にどんどんクラウドの設備を建設しています。
「自主的知的財産権」の保有に注力 ──なぜそんなにAndroidが受け入れられているのですか。
中尾 中国にはキャリアに認定されないシャンジャイ(山寨)携帯(=山賊携帯)というのもあって、台湾メーカーによる安価なチップが供給されるようになった頃から、誰でも携帯電話を作ることができるようになっています。中国国内向け、東南アジアのほうに多く輸出していて、その市場規模は年間1億5000万台ほど。その3分の2が海外、3分の1が中国国内で流通しています。チップだけでなく、当然ながらOSも必要ですが、WindowsCEは一台につきライセンスが2000円くらいかかる。山寨携帯は1台売ったところで何百円程度の利益ですが、Androidにしてしまえば、その2000円を浮かせることができることに気づき始めました。
それに中国は知的財産権をもちたがっています。「自主的知的財産権」といわれていて、それを実現しようとした場合に、OSSは一から作らなくても大丈夫だし、その上でカスタマイズしようと思えばそれができるし、怒られないし(笑)。中国に非常に馴染んでいるスタイルではないかと思います。その一環でAndroidを戦略的に取り組むと言及しています。
──それは御社のビジネスにも影響を及ぼしていますか。
中尾 そうですね。ほとんどAndroid関連にシフトしています。日本の会社の案件でも何回かAndroidの成果物を納めましたし、今後も増えるでしょう。日本でもAndroid携帯が登場し、本格化していますから。正直、日本ではまだAndroidを企業全体で取り組んでいる会社はありません。個人開発者に支えられている部分があって、OSSの黎明期はみんなそうでした。今のAndroidは、ちょうど過渡期にさしかかっています。
──中国でAndroidが伸び盛りであることが分かりました。最後に「OESF中国」の今後の取り組みについて聞かせてください。
中尾 これからについていえば、「単にAndroidを搭載していればいい」ではすまなくなる。何らかの工夫をして付加価値を提供しないと売れなくなるでしょう。そうなると、Androidでもさまざまなスキルが必要になります。だけれども「Androidができます」といったときに「基準は何?」と疑問符がつくわけです。だからOESF全体で「Android Certified Engineer」という基準を設けて、要はTOEICのような世界共通の資格を用意します。もう一つは、Androidで仕様の標準化を進めていこうとしています。中国の参加企業はまだ2ケタに達してもいないので、年内に20~30社にしていきたいですね。
中尾 貴光氏
Profile…安徽開源軟件有限公司 董事長兼総経理、安徽省馬鞍山市花山区高級招商顧問。日本のオープンソース業界の黎明期である2000年前後から、マーケティング、アライアンス職として、ビジネス企画・推進からパートナーとの協業モデルの構築などに従事。外部団体での活動も積極的に行い、OADG/OSDLなどの外部団体、経済産業省外郭団体IPAのオープンソフトウェアセンター広報タスクグループの一員としてオープンソースの普及を進めるとともにデスクトップLinuxの普及促進、コモディティ化にも取り組む。2008年3月から主戦場を中国上海に移し、オープンソース企業の上海法人社長兼CEOを経て09年6月に安徽開源軟件有限公司を設立。