好調なベンダーが現れ始める
ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム(ASPIC)によれば、2010年に1兆5000億円規模、12年に2兆円を超えるともいわれている国内ASP/SaaS市場。SIerやNIerにとっては、業績伸長が見込める領域なわけだが、一方でどのようなビジネスモデルを提供すれば拡大できるかが課題になっている。これからビジネスに着手しようとしているベンダーにとっては、最適なビジネスモデルとはどんなものなのか。すでに成功しつつある各ベンダーのSaaSビジネスを探った。
 | NECネクサソリューションズ 業績連動型SaaSサービス 「ROIが見えやすい」がカギ |
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ユニークなコンセプトのSaaS型ビジネスで好評なのが、NECネクサソリューションズ(NECネクサ)の“業績連動型サービス”だ。
同サービスは、ユーザー企業の業績変化に応じて料金が変わる仕組み。簡単にいえば、サービスを利用した後、ユーザー企業の業績が上向けばサービス料金も上がり、逆に下がれば料金も下がる。第一弾として、昨年6月に青果卸業向けの販売管理サービス「ICHIBANSEICA for ASP・SaaS」を提供開始。価格は、1年目は全顧客とも固定制で月額25万円。2年目以降はサービスを利用した前年同月の粗利益と比べて料金が上下する。最安価格は20万円で、最高料金を60万円に設定している。顧客が持つ既存システムからのデータ移行は別途料金がかかるようになっている。
このROI(投資利益率)が見えやすいコンセプトがユーザーに受け入れられ、すでに内示を含めて4社から受注している。今年度(2009年3月期)末までに合計10社の顧客獲得を狙う。サービス開始当初の目標では、3年間で20社としていただけに、計画以上のスピードでユーザー数を増加させている状況だ。
 | マカフィー セキュリティSaaSに需要あり 国内で高い実績あげる |
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セキュリティ関連SaaSは、ウェブからの脅威を防ぐサービスやメール関連のソリューションで参入するベンダーが出てくるなど、活発になってきている。そんななか、早くから提供を開始し、国内で多くの実績を確保しているのが、マカフィーが提供する中小企業向けセキュリティ対策サービスである「McAfee Total Protection Service(ToPS Service)」だ。
「ToPS Service」は、アンチウイルスやスパイウェア対策など、常に最新のソフトを使用できるサービスだ。そのため、管理コストなどが大幅に削減できるのが特徴となる。すでに07年の時点で、導入数が7万社、50万ノードに到達した。現在では、全業種に「ToPS Service」が導入されている状況で、PCが3台しかない幼稚園から、官公庁の出先機関、数千台規模の企業など、さまざまなユーザーに幅広く導入されている。
加藤孝博社長は、「SaaSなどの流れが加速するなかで、中小企業のエンドユーザーを中心として『検討したい』という商談が非常に増えている」と、好調ぶりをアピールする。セキュリティ関連のサービス商材は今後もますます需要が伸びそうだ。
 | 新日鉄ソリューションズ SaaS拡大、急ピッチで 不況下でも受注伸ばす |
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新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、SaaS分野の拡大を急ピッチで進める。独自に構築した統合ユーティリティ・データセンターサービス「absonne(アブソンヌ)」をベースとするアウトソーシングが好調に推移。自社で取り扱う業務アプリケーションをユーザー企業向けにSaaS方式で提供するサービスも拡充している。
「absonne」は07年10月にサービス開始。立ち上がりは鈍かったが、世界的な経済危機が顕在化した昨年秋以降から大型受注案件が相次いだ。10月に介護福祉事業者向け業務ソフトの開発大手であるワイズマン、12月にLPガス事業者向け業務ソフトを開発する木産業から、それぞれアウトソーシングの受注を発表した。「absonne」が大幅なコスト削減が見込めるクラウドコンピューティング方式を基本アーキテクチャに採用し、ユーザー企業のニーズに対応できたことが好調の理由だ。
今年に入ってからは2月20日、金融派生商品の理論時価算定などに強いアップフロントと組んで同時価を算出する業務ソフトをSaaS化。金融機関向けの高価なソフトだが、複数ユーザーでシェアすることで利用料金を月額10万円に設定した。ユーザー層のすそ野を広げることで事業拡大を目指す。
 | ネットマークス コミュニケーションをSaaS化 教育機関から大型案件を獲得 |
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ネットマークスは、コミュニケーションツールをSaaS化した「PeacePlanetメール2.0サービス」を関東学院大学に導入した実績を持っている。在学生や教職員、卒業生など1万5000人規模が利用する大型案件だった。同社では「多くの大型案件を獲得できるサービス」(大橋純社長)として位置づけており、SaaS事業を柱の一つに据えている。
同サービスは、米国Zimbra(ジンブラ)社のウェブ2.0型コラボレーションソフトをベースに開発したものだ。ユーザーは、電子メールやスケジュール管理、文書管理などをウェブブラウザから利用できる。SaaSなので自社内に電子メールやグループウェアシステムを保有する必要がないだけでなく、電子メールなどの情報をネットマークスが24時間365日で運用・管理する体制が整っていたことが決め手となり、関東学院大学では導入を決めたようだ。
ネットマークスは、SaaS関連でプラットフォームを提供しようとしている日本ユニシスの子会社であるため、日本ユニシスグループとして同サービスを拡大できる素地が固まる。今後も大型案件の獲得を進める方針で、教育機関向けSaaS市場で主導権を握る可能性を秘めている。