好業績の要因に共通項あり

不況に直面し、SI業界の“二極化”がより鮮明になってきた。事業規模は小さいながらも、得意技を武器に利益率を高めるオンリーワン型と、規模の経済メリットを生かしてシェアを拡大させるシェアトップ型の二極化が進む。第3四半期(2008年10~12月期)以降、多くのSIerが業績を悪化させるなか、この二極に位置するSIerはともに業績を伸ばす。
株式や債券、為替などのディーリング(取引)システムを中心に手がけるシンプレクス・テクノロジーは、今年に入って通期(09年3月期)売上高見通しを10%近く上方修正した。今回の金融危機の激震地に近い証券会社や銀行は大きなマイナス影響を受け、IT投資を絞り込む傾向が顕著であるにもかかわらず、同社は業績をぐんと伸ばしている。同社の主戦場は金融フロンティアと呼ばれる領域で、「金融機関の収益に直結する」(金子英樹社長)ITシステム。ここに特化し、なおかつこの分野でのオンリーワンの地位を追求してきたことが業績伸長につながったのだ。
大企業向けERPパッケージソフトベンダーのワークスアプリケーションズの上期(08年7~12月期)は、連結営業利益こそ前年同期比で半減させたものの、連結売上高は前年同期比12.0%増を達成。急速に業績を拡大してきたため外注費が膨らんだのがコストを押し上げた。これまで主力としてきた人事・会計も、主要ターゲットである大企業の業績が急速に悪化するなか「大きく伸ばすのが難しい状態」(牧野正幸CEO)。だが一方で、開発人員などのリソースに少し余裕が出てきたのを“好機”と捉え、遅れ気味だったSCM(サプライチェーン管理)システムの開発に力を入れる。2010年春の新卒採用数を前年度比1.5倍に増やす予定であるなど、人員確保に積極的に取り組む。すでに“不況の次”を睨んだ体制づくりを活発化させている。
前述の2社がオンリーワン型のSIerだとすれば、シェアトップ型の代表格はNTTデータだ。第3四半期累計(08年4~12月期)で増収・営業増益を達成。通期の増収増益計画は変更しない。同社の業績伸長の大きな要因の一つに国内外でM&Aを推し進めてきた点が挙げられる。第3四半期累計の売上高は、単体が前年同期比2.7%増にとどまったのに対して、グループ会社分は同32.6%も伸びた。海外での売上高は今期600億円、来期1000億円を目指す。2010年4月からスタートする3か年中期経営計画の最終年度までには、海外での売り上げを「2000億円に設定する方向で検討する」(榎本隆副社長)など、今後もグローバル化による規模のメリットを追求する方針。
受託開発の比率が高いといった、得意技を十分生かせないモデルや、中途半端な規模で収益力の低いSIerは格好のM&A対象になりかねない。経済危機下でSIerの再編が一層進むことが予想され、そうした事態を意識した事業の見直しが求められる。(安藤章司)