パイの奪い合いが激化
不況が現実の数字となって現れてきた。主要SIerは今年に入り今期(2009年3月期)業績見通しを相次いで下方修正している。昨夏以降の世界同時不況がSIerの業績を直撃したためだ。来期(10年3月期)は「さらに厳しくなる恐れがある」(大手SIer幹部)と予断を許さない。縮む市場で業績を維持するため、パイの奪い合いが激化するのは必至。SI業界の再編機運もかつてないほど高まっている。不況に打ち勝つための構造改革は待ったなしだ。
野村総合研究所(NRI)は100億円、三井情報は60億円、住商情報システムは50億円、日商エレクトロニクスは30億円──。大手有力SIerは今年に入って今期売上高見通しを相次いで下方修正する。ユーザー企業の業績悪化が、「広範囲で、かつ急激なマイナス影響」(住商情報システムの石坂信彦代表取締役)となってSI業界を襲っている。業界最大手のNTTデータは、積極的なM&Aの効果もあり、現時点では今期の業績見通しを維持。ただ、連結子会社の伸びに比べて、単体の伸びはそれほど大きくない。仮に、M&A戦略を展開していなかったとすれば、厳しい状態に追い込まれていた可能性もある。
SI案件の縮小や延期などで仕事が減り、かつユーザー企業からの値引き要求も強まる。大手SIerは外注費の削減を急ピッチで進めていることから、中小SIerの業績を圧迫することは確実。NTTデータの榎本隆副社長は、「この2年間は聖域なき改革」を推し進めることを明確化。M&Aなどでグループ会社は140社余りに増えており、協力会社の数もおよそ550社と多い。あまりにも細分化、ロングテール化され、劇的な経済環境の変化に対応しにくい。まずは、グループ再編やパートナー政策の見直しによってガバナンスを強化し、ぜい肉を削ぎ落とす。08年4月に発足したITホールディングスも、同年10月に大規模な組織のフラット化を実施するなどグループ再編を急ぐ。
ここ1~2年は底這いが続くという前提に立ち、NTTデータでは「2年以内の改革の遂行」(榎本副社長)を掲げる。すでに公共ユーザーの領域を担う一部グループ会社の統合を始めており、長年の課題だった協力会社の多さについては「何社に減らすかは言えない」としながらも、互いに収益力を高められるパートナーのみに絞る方向で準備を進める。
来期については“厳しさが増す”という見方が支配的だ。SIの現場からは、「ユーザー企業自身の来期業績見通しが立たないなかで、IT投資の動向は混迷の度合いを増している」との声が聞かれる。NTTデータは、「増収のめどは立っても、増益を達成できるかどうかは微妙」と明かす。同社は来年度連結営業利益率10%の達成を計画するものの、ユーザー企業からの値下げ圧力が強く、自身の構造改革費用も必要になるなどマイナス要素が大きい。限られたパイを奪い合う状況下で、SI業界の再編は避けられない見込みだ。(安藤章司)