苦戦の「SBS」に代わる大型商材
「Windows Small Business Server(SBS)」――。マイクロソフト(樋口泰行社長)の中小企業向けサーバー製品の名称だ。数々の施策を打ちながらも鳴かず飛ばず。12月中旬、同社は新版を発表し、その拡販施策が注目された。だが、同社と販社が大きな期待をかけていると感じたのは、「SBS」の新版ではなく、それと同時に発表された新製品「Windows Essential Business Server(EBS) 2008」だった。
「SBSは、トラウマになっている……」(マイクロソフト社員)。中堅・中小企業(SMB)市場開拓の本命として、同社は「SBS」の拡販にかなり苦労してきた。ただ、他国に比べて販売本数は伸びていない。「ドイツと比較した場合、日本はその10分の1規模」と林憲一・Windows Server製品部マネージャも認める。OSやメールなどのセット商品で、個別にライセンスを購入するよりも得だ。分かりやすい管理ツールも付く。製品の優位性は高い。だが、販売実績は鳴かず飛ばずといったところ。
理由は、日本と海外のSMBの違いにある。日本のSMBは、IT利用への意識が他国に比べて低く、導入に消極的だ。加えて、海外企業は「SBS」程度の製品なら自分でインストールして稼働・運用するが、日本はITベンダー任せ。マイクロソフトは「IT推進全国会」などで販社網の増強に挑戦し続けているが、利幅が小さく手間もかかるSMBに、「SBS」を真剣に売ろうとするITベンダーは多くない。だからこそ、「SBS」は日本で存在感を示せなかった。12月中旬に発表された新版は、従来以上に付加価値が高い。とはいえ、それでも前述のような壁を崩せるかといえば、過去の実績から判断すると疑問符がつく。
新版を投入しても今までと同じで、マイクロソフトのSMB開拓は難航するのか。今回はそうともいえない要素がある。「SBS」新版とともに発表した新製品「EBS 2008」がそれだ。マイクロソフトは従来の「SBS」に「EBS」という新ブランドを加えた。「EBS」は「SBS」の上位版の位置づけで、棲み分けのポイントは、「SBS」は従業員75人以下向けで、「EBS」はそれ以上300人以下企業向けになる。機能面で大きく違うのはセキュリティ機能の有無だ。価格は各ソフトを単体で購入する場合に比べて25%割安。といっても、価格が引きつける要素となっているのではない。パートナーの関心はそれ以外のところにあるようだ。
マイクロソフトは製品発表時に、両製品の対応表明パートナーも発表(上図参照)。とくにSIerをその気にさせられたことは大きい。
これら10社のパートナーは両製品に対応している。だが、その1社である日本ビジネスコンピューター(JBCC)の内田裕之・ERP事業部.NETセンター長は、「『SBS』に比べて『EBS』はSMB向けのソリューションを作るインフラ製品として使いやすい」と説明。「EBS」を積極拡販するためのソリューションメニューも用意しており、「EBS」を重視しているのは明らかだ。
林マネージャも、「『EBS』のほうが日本に適しているという意識が米本社にはある」と、日本法人も「EBS」のほうが売りやすいと思わせるようなコメントを口にする。
「EBS」の登場でパートナーが動き出した。マイクロソフトのSMBビジネスに変化が起きそうだ。(木村剛士)